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保全生態学研究における論文の査読と判定

保全生態学研究 編集委員長 角野康郎
2013年7月1日

 学会誌の編集では査読システムが重要な役割を果たす。投稿論文は、複数名の査読を経て、受理、改訂または却下の判定がなされる。1回で受理というケースはほとんど無く、改訂を求められるか、残念ながら却下ということになる。改訂には大改訂(major revision)と小改訂(minor revision)があり、保全生態学研究誌の場合、大改訂の場合は改訂稿を査読者に回し、再査読を受ける。小改訂の場合は、査読者の指摘した問題点が適切に修正されているかどうかを編集部で判断し、受理の可否を決めることになる。
 論文の著者はどのような査読結果が戻ってくるかと不安を抱きながら待つのが常だろう。自分では良くできた論文だと思っていても、問題点を厳しく指摘されることもある。第3者による査読によって論文のレベルや内容がチェックされることは、学会誌の質を保つことはもちろん、投稿者にとっても研究成果をよりよい形で発表できるという意味で重要なプロセスである。その査読が迅速かつ適正に行われることは学会誌が常に目指すべきことであるが、査読者の多忙や、ときには原稿の未熟さによって、思いがけない時間がかかることもある。今回は保全生態学研究における査読と判定に要している期間の現状を報告して、今後の改善のための一助としたい。
 投稿論文は、2名の専門家に査読を依頼する。査読者は調査・研究の目的の明快さ、方法、結果、考察等について、その妥当性を判断し、再検討すべき点があれば問題点を指摘して改稿を促すか、改稿では解決できない根本的な問題がありと判断すれば却下すべきとの意見を編集委員長に戻す。原著論文としては不十分であるが、調査報告として掲載すべき内容を含んでいるという助言をいただくこともある。
 2名の査読者の意見が一致すれば最終判定もそれに従うが、ときに1名の査読者は小改訂、もう1名は却下すべきであると意見が分かれるときがある。2名の査読者は異なった視点から論文を評価できるように選ぶ(例えば1名は対象生物群の専門家、もう1名は解析手法に詳しい方)。それぞれの専門知識によって問題点の指摘が異なるのは、よくあることである。却下の理由が妥当なものであり、原稿の書き直しで根本的問題点が解決しないと判断すれば、いったん却下ということで原稿を返す。判断がむずかしいときには第3の査読者の意見を求めることもある。却下の判断は、編集委員長としてはもっとも責任重大な決定である。理由を明確にして、自らの論文にどのような問題点があるのかを納得いただくことが肝要であると考えている。
 本誌では査読期限を4週間としているが、実際に査読レポートが届くまでの日数には幅がある。図1は過去3年間の投稿論文について、査読を依頼してから結果が戻ってくるまでに要した期間の頻度分布を示している(再査読も含む)。早い場合は数日で戻ってくる。最優先で査読に取りかかっていただける、編集部としては大変ありがたい査読者である。約半数の査読者からは期限の4週間以内に結果が戻ってくるが、もっとも多いのは5週間目であった。締め切りが近づいたので、そろそろ査読に取りかかるというパターンが多いことを反映しているのだろう。皆さんの忙しさが目に浮かぶ。なお、少しでも早く査読結果を返していただけるよう、今までは4週間の期限が来た段階で行っていた督促の連絡だけでなく、今後は3週間経った時点でリマインダーを送ることにした。
 1週間遅れくらいであれば大勢に影響はないが、ときに2ヶ月経っても結果が届かないときがある。このような時は、もうしばらく待つべきか、査読者を変更して新たな方に依頼するべきか、編集責任者としては迷う。結果的にどちらが早くなるか予想がつかないからである。最終的に査読結果が届くまでに3ヶ月以上経っていたというケースもまれながらある。査読をお願いする方は、たいへんお忙しいとわかっているので、もう少し待とうということになるのだが、実は査読の遅れが原稿そのものに起因する場合もある。
 私自身もいろいろな雑誌から投稿論文の査読を依頼されるが、英文にせよ日本語にせよ、わかりやすい表現で論理的に書かれた原稿は、どこを修正すればよいかはっきりしているので査読コメントを書きやすく、結果を早く返すことができる。自分としても良い仕事をしたと達成感がある。しかし、データの示し方も文章の論理構成も混乱した完成度が低い原稿には苦労する。却下するにしても問題点について逐一コメントを書くとなると大変なエネルギーと時間がかかるのである。どこから手をつけてよいかわからず、机の上に放り投げたままで時間ばかりが経つことになる。論文審査が早く進むためには、結果のオリジナリティだけでなく、わかりやすい原稿を書くという投稿者の努力も不可欠なのである。
 本誌の投稿論文にも、ときに頭を抱えたくなるケースがある。いったい何を言いたいのか読み返しても理解できない文章、論理構成の不備、そして投稿規定に無頓着な原稿も送られてくる。投稿規定に従っていない原稿は査読に回さずに書き直しを求めるが、完成度の低い原稿は査読者にもたいへんな負担をかけることになる。論文投稿者は論文の書き方と日本語の文章術から磨いてほしいと思う。周囲に原稿を読んでもらえる人がいる場合は、ぜひ第3者の意見を求めるとよい。それができない場合は、自分の原稿が読者に理解されるかどうかをチェックする習慣をつけていただきたい。自分にとっては当然のことでも、読者にとってはきちんと説明してもらわないと理解できないこともある。これは論文を書こうとする人にはもっとも基礎的なトレーニングである。

 
  図1 保全生態学研究に投稿された論文の査読期間(2010〜2012)
図1 保全生態学研究に投稿された論文の査読期間(2010〜2012)
  図2 保全生態学研究に投稿された論文の最初の判定が出るまでの期間(2010〜2012)
図2 保全生態学研究に投稿された論文の最初の判定が出るまでの期間(2010〜2012)

 さて、査読結果を踏まえ、編集委員長としての次の作業は掲載の可否あるいは改訂の方向について判定することだが、1名の査読者からは早々に報告があっても、もう一方の査読者の報告が遅れると判定ができない。図2は、最初の判定(First decision)までの期間を示す。1ヶ月程度で最初の判定を返すことを目標にしているが、実際には2ヶ月以内という論文が最も多い。4ヶ月かかった論文もあった。2ヶ月以上経っても判定結果が届かない場合は遠慮なく問い合わせていただきたい。1日も早く判定結果をお知らせできるよう編集部としても適切な対応をする。このようなプロセスを経て受理にこぎつけた論文はできるだけ早く掲載できるように努めている。
 初めての論文投稿が保全生態学研究という方もおられよう。最初の論文を仕上げるのには苦心するものであるが、査読によって第3者の意見を聞くことはたいへんよい勉強になる。厳しいコメントも少なくないが、自分の研究を客観的に見つめ直すことのできるまたとないチャンスである。このような経験が論文執筆能力を高め、次の論文からは、ずっと容易に書くことができるのである。 調査や研究の成果は形にして残さないと意味がない。ベテランの方も若手も、ぜひ論文を書いていただきたい。査読をお願いする方には、たいへん忙しい時間の一部を割いていただくことに感謝している。査読のシステムは研究者間の相互扶助の精神によって成り立つことをご理解いただき、いっそうの協力をお願いしたい。
 多くの成果が論文として投稿され、それが形になることは編集にたずさわる者にとって何よりの喜びである。保全生態学研究誌は、日本の保全生態学の発展と生物多様性保全の取り組みの前進のために、重要な役割を果たすようになっている。皆様の積極的な投稿を期待する。
  末筆ながら、編集状況の資料整理でお世話になった編集事務担当の橋口陽子さんにお礼申し上げる。

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