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群集のプロセスを考慮した生態系管理

企画責任者: 石田 健(東京大学) 宮下直(東京大学)

キーワード; 種間ネットワークモデル,奄美大島,外来種,理論と実践


趣旨

生態系は、動的であり可塑性がある。自然環境管理に生物多様性保全が加わっ た社会的要請によって、生態学者がこれからつきつけれる根本的な課題は、生態系全 体の動態予想と制御手法への提言、いわゆる、生態系管理である。希少種の保護と生 物多様性保全、外来種駆除など、特定の種の駆除や個体群管理を行う必要性は行政に おいても認識され、実践もされつつある。こうしたキーストーン種・旗艦種・系外 (外来)種などの個別の個体群管理にくらべて、生態系管理は着想段階であり、まだ 明解な指針も実践例もないだろう。この課題にとって日本における顕著な例の1つと して、多くの固有種が生息し独特の生態系が進化している、南西諸島の奄美大島や沖 縄島の森林がある。ここでも、20世紀後半の開発による森林の分断化と系外(外来) 種の侵入とによって、固有生態系の保存は絶望的である。固有種の保護に取り組む研 究者や活動家が集まりつつあり、マングースの駆除事業も実施されている。ここでも、 生態系管理の方向性を明らかにし、固有生物群集の最大限の保存や回復を模索するこ とが、生態学者の役割だろう。例えば、マングースの駆除は、別の系外種であるクマ ネズミの一時的、部分的な増加をもたらし、固有群集に負の効果(個体群密度低下) をもたらす恐れもあることが指摘され始めた。また、森林生態系の一次消費者や雑食 者の動態に大きな影響を与えると考えられる堅果類の豊凶がもたらす効果も考慮する 必要がある。

私たちは、以下の視点からこの課題を原則から議論する。(1)マングースなどの外 来種の侵入と増加、拡大防止および個体数抑制を緊急の行政課題としてとらえ、有効 な駆除方針を探る。その場合、(2)系外種を含む生物群集の構造 (種間ネットワー ク)を明らかにし、系外種の拡大および減少が,どのようなプロセスを経て奄美大島 や沖縄島の固有生物相に影響を与えるかを把握する。(3)そのために必要なモニタ リング体制を提案し、その必要性と実現可能性を検討する。総じて、理念としての生 態系管理と緊急な行政課題としての個体群管理のあり方を突き合わせ、理論サイドと 現場サイドとの融合を図る布石としたい。

プログラム