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[proceedings] 公募シンポジウム S06
- S6-1: Spatial hierarchical approach in community ecology: a way beyond high context-dependency and low predictability in local phenomena (Noda)
- S6-2: Larger spatial scale effects change the relationship between limiting factor and density at smaller scale: A case study of sheet-web spider Neriene brongersmai (Takada,Miyashita)
- S6-3: Latitudinal gradient of species diversity: multi-scale variability in rocky intertidal sessile assemblages along the Northweastern Pacific coast (Okuda,Noda,Yamamoto,Ito,Nakaoka)
- S6-4: Spatial analysis for continuously changing point patterns along a gradient (Shimatani)
- S6-5: Spatial ecology: mechanisms for the power law indicating scale free nature of the system, (2) spatial Markov model of land use change. (Iwasa,Schlicht,Satake)
- S6-6: Extinction and conservatoin of populations through landscape changes (Natuhara)
- S6-7: A landscape approach to ecosystem management (Mitsuhashi)
S6-1: Spatial hierarchical approach in community ecology: a way beyond high context-dependency and low predictability in local phenomena
近年の局所群集に関する研究成果の蓄積により,小空間スケールの群集構造とその決定機構は条件依存性が高く予測可能性も低いという認識が浸透しつつある.その一方,未だに多くの群集で,空間スケールとともに観察されるパターンがどのように変化するかはほとんど明らかにされてはいない.つまり,膨大なる研究の蓄積とは裏腹に,生物群集に関する予測性は未だ低いままであると言えよう.この現状を打破し,生物群集について一般則を探求するためには,研究の重心を従来の「局所(小スケールの)群集構造の決定機構の解明」から「空間スケールと群集構造の関係についての規則性の探索とその形成プロセスの解明」へとシフトさせることが得策であろう.この新課題に対して有効な研究アプローチとして,空間的階層アプローチ(調査地の空間配置を複数の入れ子状に設定する方法)を,構成種の生活史や種間相互作用が明らかにされている群集に適用することを提案する.本講演では,最初に生態学において頻繁に用いられるが誤用の多い空間に関する2つの概念(「スケール」と「レベル」)を簡単に説明する.続いて群集生態学の最近の進展について総括し,生物群集についての予測可能性を上昇させる上で特に重要だと考えられる研究課題を提示する.そして,この課題に対応した研究手法のひとつとして空間的階層アプローチの有効性を議論し,最後に空間的階層アプローチを用いることで解明できる群集生態学の重要なテーマを紹介したい.
S6-2: Larger spatial scale effects change the relationship between limiting factor and density at smaller scale: A case study of sheet-web spider Neriene brongersmai
本研究は、スギ林床に生息するチビサラグモを用いて、パッチレベルにおける生物の個体数とその制限要因との関係性が、上位の階層である個体群レベルの要因からどのような影響を受けているかを明らかにした。千葉県房総半島におけるスギ林15ヶ所をそれぞれチビサラグモの個体群とみなし、各個体群でパッチレベルでのサラグモ個体数と造網のための棲み場所の量(以下、足場量)、および個体群レベルでの足場量と餌量、スギ林の面積を4つの発育ステージで調べた。
まずパッチレベルでの個体数は、パッチ内での足場量と正の相関があった。次にパッチ内の足場量を共変量として共分散分析を行った結果、すべての発育ステージでパッチ内の個体数は個体群間で有意に異なっていた。つまり個体群レベルでの何らかの要因がパッチレベルの個体数と足場量の関係を相加的に変化させていた(相加効果)。重回帰分析の結果、この相加効果は、個体群レベルでの足場量の違いにより生じていることが推察された。
次に個体群レベルの足場量がもたらす相加効果のメカニズムを知るため、まず発育ステージ間で相加効果の大きさを比較し、その効果が及ぶステージを特定した。その結果、幼体初期で最も大きく、発育ステージが進むほど小さくなり、次世代の幼体初期に再び大きくなっていた。つまり、相加効果は成体から幼体初期の間で働いていると推測された。個体群レベルの足場量とサラグモの繁殖率との間には関係がなかったため、相加効果は卵から幼体初期における個体群間での死亡率の差が原因と考えられた。個体群レベルの足場量の違いが幼体初期の個体群間での死亡率の差をもたらしているという仮説を検証するため、現在、広範囲の足場量とサラグモ個体数を操作したエンクロージャー間でサラグモの死亡率を比較するという野外実験を行っており、その結果も併せて発表する。
S6-3: Latitudinal gradient of species diversity: multi-scale variability in rocky intertidal sessile assemblages along the Northweastern Pacific coast
地域スケールの種多様性の緯度勾配は生態学において最も普遍的なパターンのひとつである。しかし、地域スケールの多様性の空間的構成要素(α・β多様性)の緯度変異とその決定機構はよくわかっていない。また、相対的現存量を考慮した多様性尺度における緯度勾配パターンもよくわかっていない。
そこで、岩礁潮間帯固着生物群集を対象に空間スケールを階層的に配置した調査を行い、1)地域多様性の緯度勾配は存在するのか、2)地域多様性における各多様性成分の緯度勾配とその相対貢献度は空間スケールに依存してどのように変化するのか、3)種多様性の緯度勾配は種の豊度とシンプソン多様度指数で異なるのか、について調べた。
日本列島太平洋岸(31°Nから43°N)に6地域、各地域内に5海岸、各海岸内に5個の調査プロットを設定し、固着生物を対象として被度と出現種数を2002年7月と8月に調査した。被度からシンプソン多様度指数を、出現種数から種の豊度を求め、空間スケールに応じて加法的に分解した(γ=α+β)。また、γ多様性に対するα多様性とβ多様性の貢献度の空間スケール依存性を地域間で比較するためにABRアプローチ(Gering and Crist 2002)を用いて解析を行なった。その結果、地域の種の豊度において明瞭な緯度勾配が見られた。また、海岸間の種組成の違いに緯度勾配が見られたが、その他の多様性成分には緯度勾配は見られなかった。一方、シンプソン多様度指数では全ての空間スケールで緯度に伴う明瞭なパターンは見られなかった。ABRアプローチの結果、種の豊度においては低緯度ほどβ多様性の相対的貢献度が高くなっていたが、シンプソンの多様度指数では緯度に伴うパターンは見られなかった。以上の結果から、普通種の相対的現存量には緯度に伴った変化はなく、海岸間での希少種の入れ替わりが地域の種の豊度における緯度勾配を生み出していると考えられる。
S6-4: Spatial analysis for continuously changing point patterns along a gradient
森林は生物の集合体である。単なる数字としてのデータを追いかけ回すだけでは、容易に自然の真理には近づけない。当然のことながら、携わる者には、両者の素養、さらには両側の研究者からの助言や協力が不可欠である.概してこのような場合,生態学者と統計学者がそれぞれの専門を生かして役割分担する分業的研究スタイルが採用されがちであるが,実際の生物を知らない統計学者と、統計学者の出した結果を盲目的に信ずるしかない生態学者が役割分担するだけでは,生態系の真理に迫れない.本研究では、故林知己夫統計数理研究所名誉教授らが提唱した「データの科学」の研究スタンスを受け継ぎ、分業的でない研究スタイルで森林群集データを扱っている.
樹木の空間分布パターンは,標高などの環境傾度に沿って変化する場合がある.例えば低地ではランダムに分布するが標高が高いとパッチ分布をなし,かつパッチの密度や大きさも変化する.このような点分布をもたらすモデルとして,Thomas processと inhomogeneous Poisson process の融合が考えられる.即ち,inhomogeneous Poisson processでは点密度を傾度に沿って変化させられる.Thomas processは,ランダムに分布する親のまわりに子供が2次元正規分布的散布されたパッチ分布をモデル化する.これらを組合わせれば,パッチ密度,パッチ内個数,パッチサイズが傾度に沿って変化する空間パターンを創作できる.この点過程の2次モーメントはその2地点の位置に依存する4変数函数であるが,簡略に1地点の傾度値と2点間の距離の2変数で近似できる.これを使えば,傾度に沿って変化する空間パターンを視覚的にグラフで表示でき,実データからのパラメータ推定も簡易に行うことができる.本研究では,これらを北海道知床半島トドマツ個体群に適用し,その空間パターンの標高に沿った連続的変化を撹乱履歴と関係付けて議論した.
S6-5: Spatial ecology: mechanisms for the power law indicating scale free nature of the system, (2) spatial Markov model of land use change.
空間的な側面をとりあつかう理論生態学の話題から、2つの話題を取り上げたい.
[1]スケールフリーを示すベキ乗則が出現する機構:
森林の植生高の空間分布やムラサキイガイ群集の空間分布のデータによると、クラスターサイズ分布などにさまざまなベキ乗則が成立することが知られている.一般に野外で観測される地形や物理的量は,大きなスケールになるとさらに大きな起伏の変動を示し,空間の尺度と物理量の尺度を適切に調整すると,小さな部分でも大きな部分でも統計的に相似になるという性質(自己相似性)をもっている.森林やイガイ群集のベキ乗則は、それらの生態系が同様な性質を持つことを意味する.つまりどの空間スケールにも同等な変動があり、特定の空間スケールがない、つまり「スケールフリー」を体現するものと解釈されている.
このベキ乗則は、隣接相互作用により攪乱が拡大するモデルでも生じる.我々は隣接サイトの平均よりも樹高が高いと枯れやすいとするモデルにおいて、幅広い範囲でベキ乗則が成立することを示す.このモデルはもともと縞枯れ現象のために提唱されていたモデルを対称化したものだが、撹乱と修復が波状に移動する傾向をもっている.
近年プリンストングループによって、ムラサキイガイ群集の構造についての格子モデルによって、3状態モデルにおいてはベキ乗則が広い範囲で成立するが、2状態モデルではそれが不可能であり、2状態と3状態では、モデル性質が大きく異なると主張されている.我々の撹乱拡大モデルをもとに、彼らの主張の当否について議論する.
[2]土地利用変化の空間マルコフモデル:
土地利用の変化は、生態系の動態に加え個々のサイトの所有者の意思決定によって生じる.個々のサイトが生態系の遷移動態や自然撹乱に加え、将来を考えた経済的価値(Present value)の高い方へと変化させる土地利用変化の傾向があるとする空間マルコフモデルを提唱する.その結果、個々の所有者の効率的選択が、生態系全体としての効率的管理をもたらす状況と、そうでない状況とがあることを示す.
S6-6: Extinction and conservatoin of populations through landscape changes
メタ個体群理論から,地域に散在するすべての生息適地が個体群によって占有されているのでなく,占有率は再移住率と絶滅率によって平衡に達することが示唆されている.両生類のように移動距離や経路が限られる生物では,土地被覆のモザイクすなわち景観の配置が再移住率を通じて,生息地の占有率に大きな影響を及ぼすことが予想される.一方,パーコレーションモデルではそのような生息地間の連結性の消失が生息地の消失によってある狭い範囲で急速に進むことが示されている.そして,生息場所の分断によって孤立した個体群では,確率論的な個体数のゆらぎによる局所絶滅からの回復が期待できない.演者はまず大阪で絶滅危惧地域個体群に指定されているカスミサンショウウオが,メタ個体群が単位の生息地の孤立化によって,地域スケールでの分布と個体数が減少した可能性を示し,次にメタ個体群存続可能性分析によって,景観スケール内で局所個体群の孤立によってメタ個体群が崩壊しつつあるプロセスを示すことによって,本種の衰退プロセスを組み立てる.こうした景観解析と生態プロセスの関係の解明を補強するものとして分子マーカーの利用による景観遺伝学を紹介し,3者の結合により開かれつつある景観スケールでの生態学の展望を示したい.
S6-7: A landscape approach to ecosystem management
保全に関連した研究の到達点の一つは、野生生物の生息可能性とこれに寄与する環境要因や生物間相互作用の影響を定式化して、空間的に評価することにある。端的に言えば、地図として生息可能性の濃淡を塗り分けることだ。地図化を行うことで、異なる分野の地図とのオーバーレイが可能となり、コンフリクトが生じている地域を視覚的に検出することが可能となる。土木工事や大規模開発による環境の改変による生物種の分布動態を予測することを念頭をおけば、単に生物の分布リストから分布図を作成するだけでなく、生物と環境との関係性から評価しなければ、環境改変による影響を定量化することが出来ない。さらに言えば、比較的小スケールの生息場所評価だけでなく、隣接する生息場所の状況も検討しなければ、環境改変による周辺への波及効果を予測できない。周辺に良好な生息場所が広がっている場合と孤立化している場合では同じ面積の開発でも影響が異なると予想される。つまり、生態系保全という目的を掲げる限り、隣接関係の記述は避けて通れない。多くの生物が、移動分散を繰り返して生息することを考えれば当然のことであるが、問題は、隣接関係を参照する空間スケールをどのように設定するか、という点にある。
今回の講演では、カスミサンショウウオとタガメ等のいくつかの材料を取りあげ、隣接関係の空間スケールの設定に関する方法論を検討し、地図として生息場所評価を試みた事例を紹介する。また、材料となる生物種によって影響する隣接関係の範囲が極めて異なること、解析する空間範囲によっても影響する環境要因が変化することを具体的な事例から紹介し、比較的小スケールでの生態学的な研究成果を広域的に敷衍する方法を示す。