野生動物再導入計画の現状と課題

企画者:関島恒夫(新潟大・院・自然科学),山岸哲((財)山階鳥類研究所)

概要:世界的に自然環境の劣化が進む中、生物多様性に関する条約の締結にも拘わらず、地球上 の生物多様性は低下の一途を辿っている。その対応策として、生息環境の保全とともに、絶滅種あるいは絶滅個体群の復元も生物多様性を高める有効な施策として位置づけられている。野生生物の再導入は、1907年に15頭まで減少したアメリカバイソンをオクラホマ州の保護区に放したことに始まるが、今や対象となる動物群は無脊椎動物から哺乳類まで 多岐にわたり、再導入計画が実施された種数は500種以上にも及ぶ。我が国でも、2005年兵庫県豊岡市で8羽のコウノトリが放鳥され、2008年には新潟県佐渡島でトキの放鳥計画が予定されている。このように国内で野生絶滅した種の再導入事業が、国の手厚い支援のもと着々と進められる一方、再導入の意義や必要性に対しいまだに戸惑いを覚える研究者も多く、再導入事業に対する生態学研究者の合意形成が図られているとはいえない状況にある。また、野生絶滅した種の再導入より、現在絶滅に瀕している希少種への対応を優先すべきとの意見も多い。そこで、トキの放鳥が間近に迫る今、再導入の意義について今一度多角的な視点から議論し、その必要性について理解を深めたい。シンポジウムでは、先行して進められている再導入計画については報告と課題の整理、今後予定されている再導入計画については現在の取り組みについてご紹介いただき、最後に環境省から国としての再導入指針をご紹介いただくという流れを考えている。