概要:一斉開花は、東南アジア熱帯林に特有の、数年に一度の不規則な現象 である。これまで、主に植物生態学的な視点から、一斉開花を引き起こ す気候要因や、送粉をめぐる動物との関係などが研究されてきた。一斉 開花・結実は、動物生態学としても、食物資源が超周年周期で極 端に変動する非常に興味深い現象である。一斉開花・結実に対す る動物の反応は、移動能力、動物の生活史、脂肪蓄積など食物の貯蔵能 力などによって異なると考えられる。また、一斉開花・結実期以 外の長くていつ終わるか分からない食物不足時期をどのように乗り切る かが、一斉開花に対する動物の反応を分けると考えられる。 一斉開花・結実の研究は、ボルネオ・サラワク州のランビ ル国立公園などの、特定の場所で行われてきた。しかし、既存の熱帯生 態学の長期調査地では、霊長類などの大型果実食動物が絶滅しており、 開花、送粉、結実、種子散布、実生の定着、といった森林の一連の世代 交代の重要な部分が欠けている。提案者らは、大型果実食動物が生息し ているボルネオ・サバ州東部のダナムバレー森林保護区で調査を 行い、一斉開花・結実期を含む森林の季節変動に、大型動物がど のように反応するかについて資料を収集した。この結果を、これまで調 査が行われてきた昆虫などと比較することは、一斉開花・結実に 対する動物の反応を一般化する上で、たいへん興味深い。 本シンポジウムでは、昆虫と哺乳類という系統的にも生活史の上でも 大きく異なった二つの動物について、一斉開花・結実に対してど のような反応をするのかに焦点を当てて議論を行いたい。東南アジア熱 帯林での研究に限らず、系統的に離れた分類群の動物が、同じような環 境変動についてどのような反応をするかについて、体系的な比較は行わ れていない。そのため、本シンポジウムは、東南アジア熱帯林での研究 者だけではなく、生態学会大会参加者の多くにとっても、非常に興味深 い内容となるだろう。 以下の5人の研究者による発表を行い、ほかに植物生態学の立場 からコメントをいただきたいと考えている。講演者にマレーシア人が含 まれるため、シンポジウムは英語で開催する。