概要:ユネスコは「人間と生物圏(MAB)」計画の柱として「生物圏保存地域(Biosphere Reserve; BR)」の指定を行っている。現在は105カ国、531地域、日本は4カ所が指定されている。BRはユネスコが同時期に始めた「世界遺産」と一見似ており、自然度の高い「核心地域」、「緩衝地帯」、人の利用も可能な「移行地域」といったゾーニングシステムを採用している。しかし世界遺産とは異なり、主目的は、自然の持続的利用を通じた文化的多様性の維持や地域社会の発展である。そのため移行地域が重要な意味を持つ。 日本ではMABの知名度は極めて低い。しかしそのコンセプトは「生物多様性の第2の危機」に対処する上で極めて有効であり、たとえば里地里山に関 連する事業(SATOYAMAイニシアチブ、里山里海Sub Global Assessment等)との連携が考えられる。また、知床や屋久島など日本の世界遺産も、利用と保全の調和を図る取り組みが評価され、むしろMABに相応しい地域である。 日本では現在「MAB計画委員会」が中心となり、担当省庁である文部科学省や関連省庁、地域行政と協議しながら新規登録を目指している。登録地は、景観レベルでの良好な生態系を対象とすること、また科学的なモニタリングや基礎研究が必要となること、さらに現地での環境教育が重視されることから、登録地の選定から登録後の維持管理まで生態学者の幅広い関与が必要である。 そこで本企画を通じ、ユネスコMAB計画とBRについて生態学者に周知を図りたい。また新規登録を目指している地域や東アジア地域の取り組みを紹介 し、活用の方向性などの議論を行う。