| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-089
泥炭地湿原は窒素(N)やミネラルなどの栄養塩類に乏しいため、富栄養化に対し敏感に植生が応答する.特に植物の生育には強いN制限を受ける.そのため泥炭中のN量の変化に伴い植物の生長と種間関係が変化し、種組成や群集構造の変化が起こる.一方、大規模な人為撹乱は地下部の養分資源の分布パターンや利用特性の改変を引き起こす.北海道サロベツ湿原では30年間泥炭採掘が行われ、このような大規模撹乱後の養分動態を知ることは泥炭地植生の回復機構を知る上で重要となる.本研究では、特に生育の制限要因となりやすいNを施肥し各種の生長を追跡調査することで、群集の構造や発達にN施肥が及ぼす影響を明らかすることを目的とした.
実験区は、泥炭採掘跡地内に低植被サイト・ミカヅキグサ優占サイト・ヌマガヤ優占サイト、未採掘地のミズゴケ優占サイトの4つの植生タイプに設置した.2005年5月から2006年10月に5つの濃度勾配でN(NH4+)施肥を行った.施肥開始前と終了後に泥炭水をサンプリングしN含量を測定し、2005年から2007年まで毎年植生調査を行った.2007年には全植物個体を刈り取りバイオマスを測定し、N施肥に対する処理間で比較した.
施肥前の水中N濃度は低植被サイトが他3サイトよりも高いが、低植被サイトを除く3サイト間では差はなかった.施肥後のN濃度は施肥量に伴い増加しサイト間で異なった.低植被サイトではN量に対し植物の応答は不明瞭であった.一方、植被率や種数は他の3サイトで減少し、また2年間でミカヅキグササイトとミズゴケサイトで被度は大きく変化した.維管束植物の全バイオマスはミズゴケサイトでのみN施肥量に対応して増加した.ミズゴケ、ミカヅキグサのバイオマスはN施肥により減少し、ホロムイスゲでは増加した.N量の増加により、ミカヅキグササイトやミズゴケサイトにおいて遷移が進行しやすいことが示された.