| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(口頭発表) B2-03

有明八代海域における天然カキの遺伝生態学的調査

*野田圭太, 飯塚祐輔(島根大・汽水研), 水戸鼓(鳥取大・連合農学), 荒西太士(島根大・汽水研)

地球上の海域に広く分布するイタボガキ科Ostreidaeカキ類には,沿岸海域の開発や汚染などによって絶滅の危機に瀕している種の報告例が近年増加している.かつては九州の有明海域に生息していた有明海特産種シカメガキCrassostrea sikameaもその一例であり,1998年には熊本県から危急種に指定された.しかし,2004年には個体群の消長や分布の状況が不明なため情報不足に見直されており,本種の保全には,同所的に分布し本種の生息生態に影響を及ぼすマガキC. gigasとともに両種の分布実態の把握が急務とされている.本研究では,2006〜2007年に有明海域9地点および八代海域12地点の合計21地点の潮間帯から968個体の天然カキを採集し,ミトコンドリアDNAの16S rRNA遺伝子部分領域を対象とした分子分類法により,シカメガキとマガキの分布実態を調査した.なお,当研究室では八代海域の潮間帯においてシカメガキの生息を確認している(第54回日本生態学会愛媛大会).採集カキの種を同定した結果,シカメガキ354個体,マガキ584個体,ケガキSaccostrea kegaki 29個体およびスミノエガキC. ariakensis1個体のイタボガキ科カキ類4種が確認された.シカメガキとマガキはともに有明八代両海域に出現していたが,多くの採集地点では何れか単一種の優占的な分布が確認された.即ち,上層塩分psuが30未満の河口に近い湾奥ではシカメガキ,30以上の外洋に近い湾口ではマガキが多く出現する傾向があり,両種の棲み分けには塩分が制限要因になることが示唆された.


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