| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(口頭発表) B2-05

有明八代海域におけるマガキの集団遺伝構造解析

*飯塚祐輔, 野田圭太(島根大・汽水研), 水戸鼓(鳥取大・連合農学), 荒西太士(島根大・汽水研)

分子進化解析により新第三紀鮮新世おける現生種の種分化が推定されているマガキCrassostrea gigasは,現在でも原産海域の東アジアに広く分布している.本種は,海域に特異的な形態形質を有する地方集団の存在が報告されている一方,地方集団間の遺伝的な連続性が推測されている.しかし,未だ近接集団間の遺伝子流動はほとんど実証されておらず,本研究では近接した有明海域から八代海域に亘る本種の遺伝的分化を詳細に検討した.有明海域4集団,八代海域7集団および東シナ海に面した天草灘2集団の合計13集団から天然マガキ568個体を採集し,ミトコンドリアDNAのCOI遺伝子部分領域616 bpを解析した.その結果,合計132種類のハプロタイプが得られ,その内の35種類が共通ハプロタイプであった.さらに,全解析個体の約60%を占める346個体が1種類の共通ハプロタイプに割り当てられており,ハプロタイプの最少スパニングネットワーク図では本ハプロタイプの一斉放散型を示していた.一方,各集団のハプロタイプ多様度は0.504〜0.886および塩基多様度は0.11〜0.39 %,集団間の遺伝的分化係数FSTは-0.0113〜0.0413と算出された.また,有明海域,八代海域および天草灘の3海域間にも有意な遺伝的分化は認められなかった(FST=-0.0005〜0.0010,p>0.05).以上の結果から,有明海域から八代海域に分布するマガキの集団間には遺伝子流動が生じており明瞭な遺伝的分化が存在しないことが示唆された.


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