| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) E1-07
近年,国立公園など自然植生域でニホンジカ(以下シカ)の個体数が増加し,生息地の生態系に大きな影響を与える現象が全国各地で報告されている.特に,これまでシカがほとんど分布していなかった亜高山帯・高山帯への分布拡大は生態系へ深刻な影響を与えると考えられ,その実態とメカニズムの解明が重要な課題となっている.関東山地では1990年代後半からシカが急激に増加し,自然植生への影響が報告されている.本研究では,関東山地における1987年,1993年,2001年のシカの分布データと周辺の環境要因から,一般化線形混合モデル(GLMM)によって生息適地モデルを構築し,シカの分布と環境要因との関係と,その経年変化を明らかにすることを目的とした.
その結果,1987年と1993年では,積雪がシカの分布に最も強い影響を与えており,最大積雪深が28cm以上の地域ではシカの分布が制限される傾向がみられた.一方,2001年には,積雪がシカの分布に及ぼす影響が弱まり,最も標高が高い地域までシカが分布を拡大していた.1990年代以降,関東山地周辺では2月と3月の降雪量が減少する傾向がみられ,春先の雪の減少がシカの分布拡大に影響を与えた可能性が示唆された.
1987年と1993年では,シカはミズナラ林の面積割合が高い地域で分布確率が高い傾向が,スギ・ヒノキ植林の面積割合が特に高い地域では分布確率が低下する傾向がみられた.2001年では,植生タイプの違いによる影響は少なかった.
モデルによる予測と実際の分布を比較すると,1987年と1993年のモデルからはシカの生息に不適とされた地域や,潜在的に分布可能であるが実際には分布していなかった地域にも,2001年にはシカが分布を拡大しており,関東山地のシカ個体群が2001年には分布可能な地域を占有した状態であったことが示唆された.