| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) E1-08
イヌワシは日本の絶滅危惧IB類に指定されている大型猛禽類で、近年、繁殖成績の顕著な低下が懸念されている。本種の繁殖が失敗する原因は、鬱閉人工林の増加により採餌環境である森林ギャップが減少していることが大きいと考えられており、人工林の適正管理を通した採餌環境の再生が必要となっている。この現状を受け、演者らは、イヌワシの採餌環境を創出する1つの手法として列状間伐を実施し、その有効性を評価してきた。その結果、列状間伐によるイヌワシ探餌行動の誘導は期待したほどの効果が認められず、また、本種の主要な餌であるノウサギの生息密度を増加させる効果は数年間しか持続しないことが明らかとなってきた。イヌワシの採餌環境を再生するためには、単に森林ギャップを創出するだけでなく、施業地において餌生物の生息密度を持続的に増加させる森林管理方法も併せて確立する必要がある。
そこで本研究では、ノウサギを持続的に施業地へ誘引する方法として間伐後の下刈りを実施し、本種の生息密度に対する下刈りおよび新規の列状間伐の有効性を比較した。その結果、これまでの結果と同様、ノウサギ生息密度は間伐区では一時的な増加が認められたが、下刈り区では明瞭な増加が生じなかった。下刈りおよび列状間伐の2処理間で、ノウサギ生息密度に対する効果に違いが認められた原因を明らかにするため、各処理が林床環境および下層植物の量的・質的な変化を介してノウサギの環境選択に与える影響を検証した。その結果、間伐によるノウサギ生息密度の増加とその後の経年的な減少は、餌植物中の栄養含有量の変化に起因している可能性が高いことが示唆された。イヌワシの採餌環境の持続的な再生には、ノウサギによる選好性が高い高栄養価の下層植生を創出する配慮が不可欠と考えられる。