| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) H2-03
日本の焼畑はすでにほとんどの地域で廃れているが,新潟,山形の県境付近では現在でもなお焼畑による作物生産がおこなわれている.本研究では,焼畑における火入れ時の温度環境と,火入れ後に成立する雑草群落との関係から,焼畑の火入れが雑草群落の成立におよぼす影響を検討した.
おもな調査地は新潟県村上市(旧山北町)の焼畑地で,この地域の焼畑はおおむね以下のような作業手順で進められる.40年生以上となったスギ林を冬季に伐採し,枝葉などの粗朶を夏まで乾燥する.火入れ前に防火帯を整備し,8月上旬の穏やかな日の夕方から明け方にかけて火を入れる.火入れ直後に播種したカブは10月から12月にかけて収穫し,翌春にはスギ苗を植え付ける.
半自然草原における野焼きでは,地下だけでなく地表でも温度上昇は認められないが,焼畑では植物の根や種子が分布するような浅い位置なら土壌の中まで熱が伝わる.地表では数100℃に達し,地下2cmでも100℃以上になることが多い.さらに深い地下5cmでも数10℃程度の温度上昇が認められ,場合によっては100℃近くまで上昇する.
焼畑地では除草剤などを散布していないにもかかわらず,火入れ後の群落を構成する個体の大半は播種したカブ(赤蕪)で,畑地雑草やスギ林の構成種の生き残り個体はほとんど出現しなかった.草原の野焼きでは,火を入れた直後から多くの生き残り個体が出現し,元の草原に戻そうとする群落再生が始まるが,焼畑地では山火事跡地と比較しても貧弱な群落しか成立しない.焼畑では火入れ時の高温により火入れ以前から土中に存在した根・地下茎・埋土種子などの多くを死滅させることに成功していると考えられる.