| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) H2-07
極相林が不明な地域も多い.乾燥して冬季に低温な本州内陸部の中間温帯では照葉樹林の常緑高木種も冷温帯林のブナも分布せず,江戸時代以前から高度に利用されてきたため極相林が不明だった.都市孤立林では貯食散布種子が散布されず周食散布種の散布が行われるため,シイ・カシ類やヤブツバキなどの欠落した植生が極相林になると思われる.地球温暖化などでも地理的分布拡大速度の違いなどによって欠落種が生じるため,単純に気候から極相林を推定できない.外来植物の侵入によってフロラが変化した場合も現在と異なった極相林が成立することがある.
かつては個体群動態モデルを用いることも試みられてきたが,最近では群集のアセンブリールールを用いた群集予測が行われるようになってきた.比較的簡単に調査可能な生態的種特性をもとに,統計モデルによって群集を構成する個々の種の在・不在と優占度を予測する.この研究では,本州内陸部中間温帯(長野県埴科郡)と暖温帯の都市孤立林(神奈川県横浜市)において未知の極相林の予想を試みた.
結果として,本州内陸部中間温帯の尾根や斜面ではコナラやサクラ属,トネリコ属などが優占する植生が極相林であると予想された.属レベルで類似した植生は北米東岸の内陸部にも見られる.谷部ではスギとケヤキが優占する林分になったが,スギが更新可能かどうかは別途検討が必要かもしれない.暖温帯の都市孤立林では,フロラの豊かなパッチではシラカシ林となるが,ブナ科の種が欠落するパッチではシロダモやエノキが優占しシュロやトウネズミモチなどの外来種も多い植生が極相林になると予想された.
他のアプローチによる予測とクロスチェックすることが望ましいが,この研究では根拠あるひとつの予想を与えることができたと考える.