| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) I2-03
南極海では夏から冬に日射の低下と暴風が頻発し、海洋表層の混合深度が次第に深まり、植物プランクトンは相対的弱光におかれるので、光合成生産が低下してしまうことがいくつもの教科書で紹介されている。季節的な混合深化の実態は、近年、Aoki et al. (2006) Polar Biosci.誌上で報告され、このとき植物プランクトンの光合成反応の光利用効率は向上、すなわち弱光適応していく様子も捉えられた。本発表では秋の南極海において弱光環境におかれていた植物プランクトンが、突如快晴無風の「小春日和」で混合停滞したときの光合成の応答現象を比較測定した結果を紹介する。鉛直混合を捉えるべく表層ドリフトブイを構築し、現場海域に放流、水温鉛直変化を測定しながら、植物プランクトンを捕集し、クロロフィル蛍光測定装置(PAM)で最大量子収率などを時系列的に測定した。強風継続日の観測では表層から75mまでの水温は終日一致し、植物プランクトンの最大量子収率は比較的大きな正の値を示した。しかし、快晴無風日には日中、表層から75mまでに水温差が生じ、鉛直混合が停滞したものと推察された。このとき植物プランクトンの量子収率は日中ほぼゼロとなり、夜間に水温差がなくなると、表層での量子収率は再び回復した。しかし、一旦ゼロになった日中の試料を暗瓶にいれて甲板水槽中で数日間量子収率変化を追跡したものでは回復はみせなかった。これらは植物プランクトンが突然の混合停止で表層の強光にさらされ、光合成機能に不可逆的損傷を受けた可能性、現場で見せた回復現象はその後の混合再開によりダメージを受けなかった深部の植物プランクトンが表層群集へ再加入してきた可能性を示すと思われた。弱光適応した秋から冬へ向かった植物プランクトン群集にとって、突如の混合停止を導いた「小春日和」は人の感覚とは裏腹に強光ストレスという苛酷な環境なのだろうか?