| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(口頭発表) K1-09

タコノアシを用いた個体群レベルにおける除草剤の生態リスク評価

*池田浩明,相田美喜(農業環境技術研)

農薬のリスク管理は、農薬の登録を申請する際のモデル水域生態系に対するリスク評価に基づいて実施されている。しかし、定められたリスク評価法は個体レベルの室内毒性試験を機軸としており、実際の生態系からの乖離が問題視されている。この改善策として、個体群レベルのリスク評価が注目されている。そこで、除草剤が準絶滅危惧植物タコノアシに及ぼす生態リスクを個体群レベルで評価し、これまでの大会で報告してきた個体レベルの結果と比較した。

生活史段階別に水稲用除草剤ベンスルフロンメチル(BSM)の暴露試験(濃度は時間的に減衰)を実施し、タコノアシにおける4生活史段階(種子、種子繁殖体、未開花の栄養繁殖体、開花した栄養繁殖体)の推移行列を作成した。次に、密度効果と自然遷移の効果を加えたモデルを作成し、対数正規分布を用いて河川の増水によるかく乱をランダムに発生させて1000回のシミュレーションを行い、100年後の絶滅確率を推定した。

その結果、個体群レベルにおけるBSMの許容濃度(100年後の絶滅確率<0.1)は、1.6 μg/Lと推定された。この値はこれまでに河川で実測された濃度よりほぼ高く、ほとんどの河川でタコノアシは存続すると評価された。また、タコノアシの個体レベルにおけるBSMの許容濃度(一定濃度の暴露による50%影響濃度)は0.29 μg/Lと低く、個体レベルの評価は生態リスクを過大評価する可能性が示唆された。ここで、タコノアシの個体群レベルと個体レベルにおける許容濃度の相違は6倍程度だが、異種間では個体レベルにおける許容濃度が200倍以上異なった。このことは、農薬のリスク評価において、生物の階層レベルの違いがもたらす不確実性より生物種間の感受性差がもたらす不確実性の方が大きいことを示唆する。


日本生態学会