| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) K2-04
水界生態系の物質循環において、これまで見過ごされてきた病原菌ツボカビが大きな影響を及ぼしうる事が明らかになりつつある。ツボカビは自然界に広く分布する寄生性/分解性真菌類であり、本研究では湖沼の植物プランクトンに寄生する種類を対象としている。植物プランクトンの中でも大型の種類がツボカビに寄生される傾向にあるが、これら大型種は動物プランクトンには食べられにくく、食物網に組み込まれないと考えられてきた。しかし、大型種がツボカビに寄生されると、その細胞質はツボカビの遊走子体となり、それがミジンコに食べられるという、ツボカビを介した連鎖(Mycoloop)の存在が新たに解明された。すなわち、大型の植物プランクトン(細胞質)はツボカビを介して食物網に組み込まれる。栄養塩回帰効率を調べたところ、ミジンコがツボカビを食べる事により、ツボカビのみ、あるいはミジンコのみの時よりも、大型植物プランクトンからのリンの回帰効率が高い事が明らかになった。
一方、大型植物プランクトンの細胞壁はツボカビに利用されず、その行方は定かではない。捕食実験の結果、ツボカビに寄生された後の大型植物プランクトンの細胞壁は固まりを形成するため、動物プランクトンにより捕食されにくくなることが明らかとなった。また、沈降速度は寄生された細胞のほうが生きている細胞よりも早いことも判明した。すなわち、大型植物プランクトンの細胞壁はツボカビを介してより早く湖底へと沈降して行く事が示唆された。
大型植物プランクトンがツボカビに寄生されることで、細胞質はミジンコに利用される一方、細胞壁はより早く沈降するならば、細胞質内の主要栄養素(窒素やリン)と細胞壁の構成要素(炭素)の循環にミスマッチが起こりうる可能性が浮かび上がってきた。