| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) L1-10
里地の生物を代表する純淡水魚ドジョウは日本各地に分布するが,近年圃場を中心に個体群が減少傾向にある.一方で本種は休耕田を利用した養殖の歴史が長く,種苗の人為移動にともなう生態的攪乱が懸念されている.本研究では,愛媛県下に生息するドジョウの遺伝的分化と集団構造,および人為攪乱の実態を,核およびミトコンドリアDNA部分領域を用いて検証した.ミトコンドリアDNA調節領域前半の塩基配列において, 11水系17地点より得られたドジョウ186個体から,県下全域に広く分布するハプロタイプ群(塩基置換率0.3-3.4%)と,重信川水系の一部と新居浜市および,県内のドジョウ養殖場から得られたハプロタイプ群(同0-0.3%)の2系統が見いだされ,それらの間では比較的大きな分化が見られた(同3.2-5.3%).これらはMorishima et al.(2008)のクレードB-1およびB-2にそれぞれ該当した.愛媛県における前者のハプロタイプ・ネットワークは優占的に出現するハプロタイプ1を中心とした数塩基の変異によって構成されていたが,それらと大きく離れて県外,国外と結びつくハプロタイプも存在し,人為移入の可能性を示した.後者には県内で食材(中国産)および釣り餌(由来不明)として販売されていたドジョウから得られたハプロタイプ群が含まれ,その一部は重信川の野池集団(鉾田池)から優占的に出現した.マイクロサテライトの1遺伝子座(Mac-1)では,鉾田池の集団は食材や釣り餌のサンプルとともに多様性が低く,県下の他集団と大きく離れて1つのクラスターを形成した.以上の結果から,愛媛県下では都市河川を中心に県外および国外のドジョウが人為導入され,自然水域におけるドジョウ集団に遺伝的攪乱が進行していると判断された.