| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) L1-12
1990年代後半に初めて報告されたコイヘルペスウイルス病(KHVD)はコイ及びニシキゴイのみがかかる感染症で、感染魚の致死率は80%以上と高く、感染拡大の速さとあわせて、国際的に深刻な問題となっている。国内におけるKHVDのアウトブレイクは2003年に初めて観察された後、瞬く間に全国へと拡大した。琵琶湖では2004年のアウトブレイクで約10万匹が死亡したとされている。病気の診断法やワクチン開発などの研究が精力的に行われている一方、病原体であるコイヘルペスウイルス(KHV)の自然生態系における動態はほとんど明らかになっていない。我々はKHVの動態を明らかにするため、琵琶湖においてKHVの検出と定量を試みた。2007年6月から2008年12月まで9回にわたって琵琶湖沿岸22箇所で表層水のサンプリングを行い、陽イオンコート陰電荷膜法を用いたウイルス濃縮、DNA抽出、定量PCRを経て湖水中におけるKHV濃度を測定した。その結果、琵琶湖における最大のアウトブレイクから4年を経ても琵琶湖全域にわたりKHVが存在し、その濃度は最大で106粒子/L程度であること、KHV濃度は夏季に最大となり冬季に最小となる増減パターンを示すことが明らかになった。また、湖水から検出されたKHVのゲノムの一部をシークエンスした結果、国内の病魚から分離されたウイルス株と一致した。これらの結果から、湖水中のKHVは病気の拡大とともに短期間に拡がったものであること、一旦侵入したKHVは目に見えるアウトブレイクが終息した後も長期間にわたり水域中に留まり、おそらくは水域に定着することなどが示唆された。