| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) L2-02
高山のような植物の生育に厳しい条件下では,facilitation(定着促進効果)が重要な相互作用として働く.Facilitationとは,ある種が存在することにより他種の定着が促進されることを意味し,撹乱地の群集構造を規定するうえで重要な種間関係である.実生の定着・生存には,種子がセーフサイトに散布されること,休眠を破る刺激・発芽に必要な資源の存在,植食者,競争,病原菌などが存在しないことが重要であり,ナースプラントによる環境改善効果を明らかにすることは実生定着促進効果を明らかにすることにつながる.そこで,本研究は一次遷移初期段階における火山荒原に適応したシモフリゴケの遷移促進機能を明らかにすることを目的とした.調査地は富士山北西斜面の標高約2,400m付近に位置する火山荒原で,シモフリゴケパッチ内外における維管束植物実生の分布,風速,シュートの水分保持能力について検討した.その結果,実生の分布がみられたのは,シモフリゴケパッチで68.9%,裸地では29.5%であった.実生の種数についてもパッチ内で10種,裸地で5種となった.カラマツ,ダケカンバ,ミネヤナギ,ハナヒリノキおよびカヤツリグサ科sp.の5種はパッチ内と裸地の両方に出現したが,出現頻度はパッチ内で高い結果となった.ハクサンシャクナゲ,コケモモ,ヒメコマツ,ミヤマハンノキ,イワヒゲはパッチ内のみに少数ながら出現した.シモフリゴケパッチ表面における相対的な風速は約0.19となり,パッチが形成されている立地は風当たりの弱い場所であることが示された.シュート飽和時の水分含有量は5.3±0.2ml/gで,植物体の乾燥重量の約5倍の水分量を保持できることがわかった.以上より,シモフリゴケパッチは環境改善効果が少なからずあることが示され,樹木実生の定着を促進する効果があることが見いだされた.