| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(口頭発表) M1-03

森林伐採のゲーム理論:社会的ジレンマの解決に向けて

佐竹暁子(北大/PRESTO), Antonio Rogrigues (EPFL), Heinz Koeppl (EPFL), 大槻久(東工大/PRESTO)

森林伐採は、気候変動、大気水質汚染、生物多様性の喪失という環境問題をもたらす主要な原因の一つである。森林伐採は「一人ひとりの利益追求により、社会全体に被害が及び、その結果個々人も不利益を被る」という、社会的ジレンマによって特徴づけられる。社会的ジレンマは、ゲーム理論によって古くから研究されてきた。しかし、森林伐採のように自然資源利用に関わる人間行動は、伐採後の森林再生といった自然資源自体の動態に影響を受けるため、森林伐採の社会的ジレンマを理解しその解決方法を探るには、生態系の動態を無視できない。

本研究では、人間行動と生態系の動態を組み込んだ森林伐採のゲームモデルを開発した。2人の土地所有者は、隣り合った土地区画を管理している。土地所有者は森林と農地の期待効用を比較し、森林保全か伐採かどちらかの戦略を選択する。伐採戦略よって、農地への転用が生じるが、農地は経済性の減少に伴い放棄される。放棄地では森林の二次遷移が進行し森林が再生する。森林と農地の期待効用は、相手の戦略によって左右され、隣接した土地が農地だと土壌流出や火災頻度の上昇により、森林の効用は低下する。

ナッシュ均衡と安定性解析の結果、森林再生率の上昇に伴い、相互森林保全均衡から、相互森林保全と相互伐採の両者がナッシュ均衡になる状態、さらに唯一の相互伐採均衡、への遷移が生じることがわかった。また、森林再生が早くかつ農業継続時間が長いような環境で、囚人のジレンマ型の社会的ジレンマが生じ、森林再生率が遅くかつ農業継続時間が短いような環境では、鹿狩りゲーム型の社会的ジレンマが現れる。以上の結果は、森林再生率や農業継続時間という生態系の特徴によって、社会的ジレンマの解決方法が異なることを示唆する。


日本生態学会