| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) M1-08
時系列データから密度依存制御の証拠を見つけることの可否はこれまで長く議論されてきた。現時点での生態研究者の理解は、十分長い時系列からは密度効果が見出せるというものであるが、ポピュレーションダイナミクスをランダムウォークから区別するのに必要な時系列の長さは未だ解明されていない。また、個体群密度とその変化率との間には負の相関が期待されるが、実際のデータのプロットは暴れが甚だしくその(アプリオリな)関係式を確認することはしばしば困難である。これは、環境ゆらぎが密度効果を不明瞭なものにし、個体群密度の平衡点の位置を不確定にすること(density vagueness)によると考えられる。本研究では、平衡点の不確定の幅と、時系列のノイズの中から密度効果のシグナルを探り出すのに要する観測期間との間の関係を明らかにする。ICES(国際海洋探査委員会)による北大西洋漁業資源の時系列を解析すると、個体群が環境・人為の外部擾乱に対して平衡に達するまでに要する期間Teqは10年を超えることも稀ではない。Teqより小さい時間スケールでは時系列は非定常でランダムウォークする。時系列からノイズとシグナルを分離するにはTeqの6倍程の観測期間Lcが必要であり、時系列がLc年より短い場合、42.7%を超すデータ点は不確定領域内にあり、個体群動態は平衡点に向かっているのか否か判断できない。Lcより長い時系列が利用できるとき、Teqより大きな時間スケールで粗視化することによって、密度依存的制御のあるポピュレーションダイナミクスが観測できる。