| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) N1-02
一般的に, オスは多くのメスと交接することで適応度を高めるのに対し, メスは複数回の交接によって様々なコストを負うことが知られている. この利害の不一致が強い状況下では, オスでは交接を確実にする形質が進化するのに対し, メスでは交接のコストを軽減するような形質が進化する可能性がある. 演者らは, この性的対立による共進化の例としてアシナガグモ属の鋏角に注目した. アシナガグモ属では鋏角長に著しい種間変異の存在が知られているが, オスで鋏角を用いた雄間闘争が観察されること, 交接時に雌雄が互いの鋏角を噛み合わせて固定するという独特な交接前行動を示すことから, この変異には交配に関わる複数の選択圧が関与していると推測される. 特筆すべき点は, オスだけでなくメスにも著しい鋏角長の種間変異が存在することである. これは単純に雄間闘争だけでは説明できず, 鋏角に性的対立に関わる機能を仮定することで説明できると考えられる. すなわち大きな鋏角を持つことで交接の主導権を握れるのであれば, 性的対立が強い状況下では雌雄共に大きな鋏角が進化しうるという可能性である.
上記の可能性を検討するため, 本研究では1) 交接における鋏角の役割と2) 鋏角長の種間変異を明らかにした. アシナガグモを用いて様々な鋏角長の組み合わせをもつ雌雄ペアを作り, それらの交接行動を調べたところ, オスの鋏角がメスよりも長いペアでは, オスがメスをしっかりと把握することで高い交接成功を示すのに対し, 逆にメスの鋏角が長いペアではメスがオスを噛み殺すことで, オスとの交接を拒絶することが明らかになった. これは, 鋏角が性的対立に関わる機能を持つことを示唆している. この結果と鋏角長の種間変異パターンを基に, アシナガグモ属における鋏角長の多様化の仕組みについて考察する.