| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) N1-05
イトカケガイ科巻貝は,主にイソギンチャクやイシサンゴ,スナギンチャクなどの花虫類を餌とすることが知られており,寄生的な摂食を行う単食性の種も多い.ウスカワイトカケEpitonium bullatumは,相模湾以南のインド・西太平洋に産し,イソギンチャク類を専食する種と考えられる.しかし,本邦においてウスカワイトカケの生貝の採集例は乏しく,その生態は明らかになっていなかった.
演者らの調査により,2008年春に房総半島勝浦の潮間帯転石下から,ウスカワイトカケ生貝2個体が採集された.この際,いずれの個体も殻上に,ミナミウメボシイソギンチャク Anemonia erythraea sensu Uchida が,2個体ずつ付着していた.飼育開始後約1週間程度で,殻上のイソギンチャクは消失した.その後,イソギンチャクを追加しビデオ撮影を行った結果,小型のイソギンチャクは丸飲みし,大型のイソギンチャクは体組織の一部を摂食し,ウスカワイトカケがミナミウメボシイソギンチャクを餌としていることが判明した.また,ウスカワイトカケ自らが口吻を使って殻上にイソギンチャクを付着させる行動が観察された.
巻貝類の殻上に付着するイソギンチャクは5科約14種程度,そのホストとなる巻貝は13科40種程度が知られている.これらの巻貝とイソギンチャク類の関係は,偶然付着したと考えられるものから,片方または双方が依存性を持ったものまでさまざまである.しかしいずれの場合も,イソギンチャクは防御に利用されているか,または貝にとってメリットはないと報告されている.殻上に付着させたイソギンチャクを巻貝が餌として利用すること,イソギンチャクを巻貝自身が殻に付着させることが観察されたのは初めてであり,種間の関係として珍しい例だと考えられる.