| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) N2-06
講演者らは,表面抗原をつぎつぎと変異させて宿主免疫系の攻撃をかわし,毎年流行を繰り返すインフルエンザウイルスの進化・流行予測を行うため,宿主集団の免疫構造と病原体エピトープ配列の共進化動態モデルの解析をすすめている.
1968-2002のインフルエンザA香港型の表面抗原の表現型(免疫的距離)は,進化停滞期と飛躍期が繰り返す断続平衡的な進化を示す (Smith et al. 2004, Science).この発見を受けて交差免疫をとりいれた一次元抗原空間上のウイルス表面抗原進化モデルを解析すると(佐々木顕・ESJ55講演),断続平衡進化が交差免疫の幅がある閾値を超えることで起こることが明らかになった.また,ウイルス進化予測のために,エピトープ配列長10(系統数1024)のウイルス遺伝子型の抗原連続変異の動態を,10万人規模の宿主個人の感染履歴の動態と結合した個体ベース進化シミュレーターを開発した.これを用いインフルエンザ進化動態の基本法則の解明と,現在までの流行実績から進化予測を試みている.
本講演では,進化予測のキーとなる状況を想定し,新系統の集団への定着確率について得られた結果を報告する.あるエピトープをもつ系統(親系統)が宿主集団に出現し(t=0),流行がピークを迎え終息するまでのさまざまな時期に出現する突然変異体の定着確率p(t)を,突然変異体に感染した個体数に関する出生死亡過程として定式化した.親系統の流行に伴い,宿主免疫構造が変化するので,突然変異体の出生率・死亡率は時間依存する.pに関する時間依存の「後ろ向き方程式」を解くことにより,親系統の流行の初期に生じた突然変異体の定着率が,流行中期・後期に生じた系統よりもずっと高いこと,つまり,突然変異体のなかで次の流行を担う系統は前年の流行のごく初期に生じたものに強く偏ることが解析的に明らかになった.感染力の季節性の影響についても報告する.