| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(口頭発表) N2-07
ヒトやクジラで見られる繁殖終了後の長い生存期間(post-reproductive lifespan)の進化については、血縁選択により、繁殖を終えた個体が娘の育児などを手助けすることで間接適応度を大きく増加させることにより進化したという「おばあちゃん仮説」が提唱されており、理論・実証両面からその仮説を裏付ける研究がなされている。しかし、繁殖を終えた個体が間接適応度を増加させる例は、ヒトやクジラ以外の社会性動物では確認されていない。その理由の一つとして集団内での血縁者間のコンフリクトが考えられ、その点を考慮した理論研究は現時点で非常に少ない。
社会性アブラムシの多くは、ゴール(虫こぶ)という閉鎖空間で単為生殖を行うため、コロニーメンバー間の血縁度(r)がほぼ1であることが期待され、血縁者間の遺伝的コンフリクトの影響を除外できる。今回我々は、ゴールを形成する社会性アブラムシにおいて「おばあちゃん仮説」を裏付けるいくつかの状況証拠を得ることができた。
本研究では、イスノキにゴールを形成するヨシノミヤアブラムシにおいて、無翅成虫が行う自己犠牲的な防衛行動に着目した。ゴール内では、100個体以上の無翅成虫と、数千個体にもなる、それらの子が生活している。無翅成虫は繁殖終了後も生存し、外敵に対して体内から固着性分泌液を放出し、動きを阻害することが確認された。内部形態を調べた結果、無翅成虫の腹部は防衛物質である分泌液で埋め尽くされていた。さらに、無翅成虫は外敵の侵入口となるゴール入口付近に集中して分布しており、無翅成虫を除去したゴールでは、外敵の侵入率が増加することが判明した。以上の結果から、繁殖を終えた無翅成虫は生理的に防衛に特化し、外敵からコロニーを防衛することで、間接適応度の増加に貢献していると考えられる。