| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA1-055
近年、里山や中山間地域における森林の萌芽更新による短期伐採林としての利用が、森林資源生産の観点から注目されている。一方、大気CO2濃度の増加は今後も続くと予想されているため、将来にわたる森林資源確保のためには、高CO2環境における樹木の萌芽更新能力を明らかにする必要がある。
一般に、高CO2環境では植物の光合成速度は増加するが、時間の経過とともに増加程度は小さくなる。この負の制御と呼ばれる現象は葉における養分不足や生産された光合成産物が十分に転流・消費されず、葉に蓄積する事などにより起こると考えられている。しかし萌芽の場合、地上部に対して根が大きく光合成産物の消費・貯蔵器官としても働くため、葉の養分不足や光合成産物の蓄積が起こりにくいと考えられる。そのため、光合成の負の制御が起こらず、高CO2による成長促進がより顕著になる可能性がある。
そこで本研究ではFree Air CO2 Enrichment(500 ppmv)によって育成した冷温帯落葉樹5種(シラカンバ、ヤチダモ、ハリギリ、シナノキ、イタヤカエデ)を萌芽再生させ、その成長および光合成活性を調査した。
シラカンバでは高CO2による有意な樹高成長量の増加が認められた。また、高CO2によってシナノキ、シラカンバおよびハリギリの純光合成速度は増加する傾向を示したが、イタヤカエデとヤチダモではほとんど増加しなかった。つまり樹種によっては萌芽でも光合成の負の制御が起こる事が明らかになった。以上の結果より、萌芽更新による森林資源生産の効率化には、高CO2に対する萌芽の応答の樹種間差異を考慮する必要がある事が示唆された。