| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA1-057

コナラ稚樹における展葉に伴う硝酸態窒素の吸収と配分

*上田実希(京大・農),水町衣里(京大・情報),徳地直子(京大・フィールド研)

多くの陸上生態系で窒素は植物の成長を制限する要因となるが、樹木では特に窒素含量が大きい葉の生成に多量の窒素を必要とする。このため、葉に窒素をどこから、どの程度配分するかは樹木の成長に影響する重要な課題である。これまでにも、窒素の安定同位体(15N)をトレーサーとして稚樹に与える試験が数多くなされ、他の器官に貯蔵された窒素と展葉中に根から吸収された窒素の両方が展葉に寄与することが報告されている。これらの研究では樹冠内での葉の位置は殆ど考慮されていないが、稚樹でも樹冠内の位置が葉面積や重さなどの葉の性質に影響することが指摘されており、樹冠内の位置が窒素配分にも影響している可能性が考えられる。そこで本研究では樹木の葉への窒素配分を樹冠内の位置を考慮して明らかにすることを目的とした。植物の最も重要な窒素源の一つである硝酸態窒素を15Nでラベルし、コナラの稚樹に一次展葉期間(冬芽が開き始めてから葉が開ききるまで)を通して与えた後、樹冠最上部の葉(Top)と側方の葉(Lateral)を採取した。その結果、15Nの配分は樹冠内で異なった。Lateralの15N濃度はTopの二倍以上で、展葉中に吸収された窒素の寄与がTopよりも大きいことが明らかになった。また、LateralとTopでは個葉あたりの窒素含量に違いがないことから、Topでは貯蔵窒素の寄与が大きい可能性が示唆された。最上部のシュートの成長は個体全体の伸長成長を決定するため、Topに貯蔵窒素を優先的に配分し、Lateralは展葉時の土壌中の窒素環境の影響をTopよりも受けやすい可能性が考えられた。また、一次展葉が完了してから3ヵ月後に同様に葉を採取したところ、Topの15N濃度に変化が見られ、葉が完成した後でも窒素の出入りがあることが示唆された。


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