| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA1-061
蒸散に伴い葉内の水に同位体濃縮が起こることを利用して,葉内水と枝内水の酸素安定同位体比(δ18O)から植物の蒸散特性を評価するモデルが提案され,実験室や圃場での検証が行われてきた.しかしフィールドにおける検証例は極めて少ない.本研究では自然条件下の樹木の蒸散が葉内水のδ18Oに及ぼす影響を明らかにするため,中国内蒙古自治区・毛烏素沙地と鳥取県・鳥取砂丘において数種の樹木を対象にポロメーター(LI1600,Li-Cor)での蒸散速度の測定と併せて葉内水と枝内水のδ18Oの測定を行った.
植物体内では根から吸収した水が葉脈を通るまでの間に同位体比は変化しないことが言われている.まず得られたデータから葉内水と枝内水のδ18Oの差で表す同位体濃縮値(ΔLW)を算出した.その結果,多くの樹種でΔLWは夜明け直後には0に近く,日中は上昇し,14時頃をピークに減少に転じる日変化が見られた.葉からの蒸散を自由水面からの蒸発と同じ現象であると仮定した場合,葉での蒸散による同位体濃縮は,Craig & Gordon (1965)の式に温度・湿度の環境条件のみの関数を入れることでモデル的に求められ,同一環境にいる樹木間ではΔLWに差はない.しかし,ΔLWの観測値には樹種間差や個体差が見られた.このことから,ΔLWが樹種や個体によって異なる葉の気孔開度の影響を受けていることが考えられた.また,ΔLWの日変化を見ると,早朝には観測値とモデル値が近い値をとり,日中のピーク時には大きくずれていた.本発表ではこのΔLWの日変化の決定要因を考察する.