| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA1-067
中国内蒙古自治区・毛烏素沙地の自生種である臭柏(Sabina vulgaris Ant.)の稚樹は烏柳(Salix cheilophila)など看護植物の樹冠下で成長する.しかし,臭柏が成長にともなって看護植物を必要としなくなる仕組みは明らかになっていない.本研究では臭柏の幼樹期の成長にともなう蒸散特性の変化を枝中の水と葉組織中の炭素・酸素安定同位体比を用いて明らかにした.
2007年8〜9月に毛烏素沙地で,個体サイズの異なる14個体の臭柏を対象として葉(針葉と鱗片葉)と枝の中の水を採取した.葉の有機物の炭素安定同位体比(d13C)から長期的な水利用効率を,葉の有機物と枝の中の水の酸素安定同位体比(d18O)の差(18Dom)から長期的な蒸散特性を推定した.また,水利用効率や蒸散は光の影響を受けるため,サンプリング地点の全天空写真を撮影し開空度を測定した.
葉の有機物のd13Cは針葉より鱗片葉で高かったことから,鱗片葉は針葉より高い水利用効率をもつことがわかった.18Domは針葉と鱗片葉で違いは見られなかったことから,蒸散には差がないことがわかった.針葉のd13Cは光の影響を受けておらず,成長にともない上昇していた.鱗片葉のd13Cは光の影響を受けていたが,成長にともなう変化はみられなかった.18Domは針葉,鱗片葉ともにサイズとの関係はみられなかった.これらのことから臭柏は,成長初期は針葉の水利用効率を高めて,水利用効率の高い鱗片葉ができるとその割合を増やしていくことで個体全体の水利用効率が上昇すると考えられた.