| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA1-068
一年中高温多雨な湿潤熱帯雨林の環境であるが、実はその林冠上層部では、日中の強光により葉温が上昇するため、高い蒸散要求が発生する。加えて、林冠構成種は樹高が30mを超える巨木であるため、樹体内の水輸送の抵抗が高く、水の引き上げに大きな力を要する。これらの要因により、熱帯雨林の林冠構成種は日中に大きな水ストレスを受けることが予想される。では、実際の林冠構成種はどのような水利用を行っているのだろうか。材の強度、水の貯水、水輸送の効率を決定する樹幹の木部構造は樹木の水利用に大きく関わっている。そこで、本研究では湿潤熱帯雨林林冠構成種の木部構造と水利用方法との関係を明らかにすることを目的とした。
調査は、マレーシアサワラク州ランビル国立公園の低地混交フタバガキ林でおこなった。調査対象樹種には、フタバガキ科6種を含む調査地の主要林冠構成種11種を用いた。木部構造に関する調査は、成長錐を用いて木部コアを採取し、比重、道管内腔径、道管密度、道管面積率を測定した。また、調査地に建設されている高さ85m、幅75mの林冠クレーンシステムを利用し、夜明け前および日中の水ポテンシャルや、午前中と日中の光合成・蒸散速度、気孔コンダクタンスを測定した。
その結果、道管内腔径は、ほとんどの樹種で一山型のサイズ分布を示したが、種によって平均サイズは有意に異なった。また、水ストレスの指標となる夜明け前と日中の水ポテンシャルの差と、水輸送効率を左右する道管直径との間には有意な相関関係が見られた。つまり、道管サイズが大きいほど水ストレスが大きくなる傾向が見られた。同じ湿潤熱帯雨林の林冠構成種でも、水利用方法は多様であり、それには樹種による木部構造の違いが大きく関係していることが示唆された。