| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA1-070
標高が高くなるにつれて植物を取り巻く環境は厳しさを増す。植物の表現型には標高に沿った様々な変異が見られ、例えば高標高地に分布する植物は太く短い茎をもち、葉が厚いことが知られている。このような変異は高標高地への適応に貢献していると予想される。本研究は、モデル植物シロイヌナズナと同属の野生種ハクサンハタザオ(ハクサン:低標高型)と、本種から派生的に分化したエコタイプのイブキハタザオ(イブキ:高標高型)を対象に、植物の山地適応をゲノムレベルから表現型レベルまで包括的に明らかにすることを目標とし、その第一歩として両エコタイプの生育地における物質分配様式を標高傾度に沿って調べた。花期終盤の6月に採取した個体を、抽薹した茎、茎上の葉(茎葉)、繁殖器官に分けて秤量し各器官の割合を求め、茎と茎葉の特性を測定した。また、栄養生長期の11月に採取した個体の葉柄と葉身の割合を求め、葉特性を測定した。
ラメットあたりの地上部バイオマスは、標高が高くなるにつれて減少し、かつイブキはハクサンに比べ小さい傾向があった。茎への投資割合を表す茎/茎上バイオマス(茎+茎葉+繁殖器官)比はイブキにおいて高標高で有意に低い傾向が見られた。また、繁殖器官/茎葉比はイブキにおいて高標高で有意に高く、高標高に生育するイブキは繁殖器官へ多く投資していた。茎長と基部直径は正の相関が見られ、高標高において、またイブキでは、相対的に太く短い茎を作っていた。従ってイブキは比較的少ない茎資源を茎を長くするよりも肥大させるように利用し、それは繁殖器官の支持に役立っていたと考えられる。葉面積あたりの葉重は高標高、イブキにおいて高かった。これらの結果から、高標高地に生育するイブキは強風や物理的ストレスに強い物質分配様式をもつと考えられる。