| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA1-071
木本植物は、生育環境に応じて樹冠形態や枝葉の資源配分を変化させ、同種内であっても異なる形状の個体となることが知られている。木本植物の生育環境として特に重要なものは光であり、また同時に生育密度も個体間の光獲得競争を左右するため重要であると言える。この二つのどちらかに着目した研究は多数存在するが、木本植物の自然個体群において、光と個体密度の関係性は場合により異なる。そのため光と個体密度のそれぞれが与える影響を独立に評価するには、どちらか一方に着目するのではなく、二要因を同時に考慮することで両者の影響を分離した研究を行う必要がある。そこで本研究では、稚樹の形態・資源配分が、光と個体密度に対して持つ可塑性を独立に評価することを目的とした。
京都大学芦生研究林では、テツカエデ(カエデ科)の稚樹が林床で優占している林分が多く見られ、多様な光環境・個体密度で生育している。このテツカエデ稚樹を材料として用い、林床で光環境・生育密度が相関を持たないよう個体を選出し、両者の影響を分離するよう試みた。形態指標としてLAI (総葉面積/樹冠面積)、資源配分の指標としてLMF (葉重量/地上部重量)を各個体に関して算出した。
明るい環境ほど稚樹の樹冠深・LAI・LMFは増加し、個体密度が高いほど樹冠幅・樹冠深・LMFは減少した。稚樹は光環境に応じてLAIを調節することでLMFを高めようとしていると考えられる。また密度が高く混み合った環境では、隣接個体との光競争のために樹冠をより高い位置に持ち上げ、そのためにLMFは犠牲にしていると考えられる。このように形態と資源配分を同時に調節することで、テツカエデ稚樹は環境に順応しているといえる。