| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA1-074
昭和基地周辺には、南極の一般的イメージ「薄暗い氷に閉ざされた大陸」とは違った露岩域と呼ばれる地帯がある。これらは氷期-間氷期サイクルという地球規模の環境変動の影響を受け、3〜4万年前に南極氷床が後退して創成された。そこに多数点在する多様な形状・水質を持った湖沼の底には普遍的に、まるで草原や森林のような植物群落(藻類・コケ類優占)が一面に広がっており、南極陸域生態系の中で最も豊穣な植生と言われている。この湖ごとに独自で多様な湖底藻類形成と繁栄の謎に迫るべく、1)南極湖沼の環境変動の解明、2)湖底藻類群集の保持色素と光合成の関係、3)光変動に対する藻類群集の応答性、というアプローチによる研究を行った。
南極湖沼の大半は貧栄養かつ低温環境であり、一年のほとんどを氷に覆われ、氷厚や積雪によって水中の光環境は大きく影響を受けていた。高緯度に位置する南極の夏季は、光合成生物にとって限られた成長期である。しかし、夏季の日長は長い上に、紫外域を吸収する溶存有機物質が低濃度の湖水であるためか、湖底まで最大で地上の約70%の可視光と約50%の紫外線が到達しており、これは藻類にとって障害を与え得るレベルの強光・強紫外線であった。藻類群集はこのようにストレスの多い極域で生存し生長するために、群集表層に多量の光防御色素と紫外線防御物質を保持することによって死滅回避しながらも、光環境の変動に応じて保持色素の組成を調整することによって可能な範囲の光エネルギーを利用するような応答を示すことが明らかになった。これにより、藻類群集は死滅すること無く正の光合成を維持でき、南極の湖底で大群落を築き上げていたと考えられる。