| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA1-075

異なる標高の湿原植物における葉特性の戦略シフト

*神山千穂, 彦坂幸毅(東北大・院・生命科学)

光合成能力、窒素含量などの生理的特性や、LMA(葉重葉面積比)などの形態的特性や葉寿命など、植物のもつ様々な葉特性は種間で大きく異なる。しかし、地球規模で見ると、特性間の関係には一定の傾向があり、一本の軸上に収斂していることが知られている。例えば、葉寿命が長い種では、光合成能力が低く、葉が厚い傾向がある。しかし、異なる気候のもとに成立するバイオーム間では、相関が平行移動するようにシフトすることがあり、相関関係は一義的なものではない。各バイオームの植物をとりまく環境と葉特性は密接に関わっていると考えられる。

本研究では、2つの異なる標高に成立する湿原群集に着目し、青森県八甲田山系において、各標高(590mと1290m)に広く観察される機能型(functional type)の異なる種(低標高8種、高標高9種)を対象に、それらの葉特性を調べた。

高標高では、LMAと窒素含量間の負の相関が下方にシフトしたが、その他の葉特性に、標高のみによる異なる傾向はなかった。葉寿命の長い種ほど、またLMAが高い種ほど、窒素含量、最大光合成速度、窒素利用効率(PNUE)が低下し、機能型に着目すると、それらの相関関係は落葉種に比べて常緑種で下方にシフトする傾向があった。窒素含量と最大光合成速度間には正の相関があり、落葉種に比べ常緑種で下方にシフトし、さらに低標高の常緑種で下方にシフトした。常緑種の葉寿命(51-1217days)は、落葉種(54-101days)に比べて長く、低い光合成能力を補っていると考えられる。光環境について考えると、群集構造の発達した低標高では、群落下層に葉を展開する常緑種の光環境(Φarea)が高標高よりも悪くなる傾向がある。光環境の著しい悪化は、光合成能力の低下の要因となり、低標高の常緑種に不利にはたらいている可能性が示唆される。


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