| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA1-078

標高傾度にそった亜高山帯針葉樹の肥大成長の将来予測

*奥原勲(信大院・工),安江恒(信大・農),高橋耕一(信大・理)

中部山岳地帯に位置する乗鞍岳の亜高山帯では、ダケカンバが標高1600 m 〜 2500 m、シラビソが標高1600 m 〜 2200 m、オオシラビソが標高2000 m 〜 2500 mで優占している。これらの樹種の分布上限と下限において気象(月平均気温・月降水量)と樹木の年間の肥大成長(年輪幅・年輪内最大密度)との関係について解析を行ったところ、以下の点が明らかになった。シラビソでは分布下限よりも分布上限において肥大成長に対する気温と降水量の効果が大きかった。オオシラビソでは標高間であまり差は見られなかった。分布下限のダケカンバの年輪幅は夏の気温と負の相関、夏の降水量と正の相関を示すのに対して、分布上限のダケカンバは逆の傾向を示していた。また、年輪幅よりも年輪内最大密度において気象に敏感に反応した。しかし、今後の地球温暖化に対して、にそれぞれの樹種の成長がどのように反応するかは、気温との相関が正負いずれも現れることや、降水量の未来の変動について不明な点が多いことから容易には予測できない。そこで本研究では、年輪幅・年輪内最大密度の時系列情報と気象データとの重回帰によるモデル式に、2100年までの日本国内の気象変動を予測したMIROCの出力内挿データを代入することで、各樹種の年輪の成長傾向を予測した。

得られたモデル式による予測では、1600 m のシラビソの年輪内最大密度、1900 m のシラビソの年輪幅、1900 m のオオシラビソの年輪内最大密度は将来増加するようである一方で、降水量の影響が強い2400 m のダケカンバの年輪幅は気温よりも、降水条件の変動が効いているため減少傾向をみせた。ダケカンバを除き、今後の温暖化でシラビソ、オオシラビソの肥大成長の増加がもたらされることが考えられる。


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