| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA1-081
光は植物にとって欠くことのできない資源である一方、そのエネルギー故に光合成器官に損傷を与え、光阻害と呼ばれる光合成活性の低下を引き起こす。森林などの群落では群落上部から下部にかけて光強度の勾配が見られるが、一枚の葉の内部でも光強度の勾配が見られる。これは群落で葉が光を吸収することで光強度が減衰していくのと同様に、葉の内部では葉緑体が光を吸収することで葉の表側から裏側にかけて光強度が減衰していくためである。
光阻害は光エネルギーによって引き起こされるため、光強度が強いほどより光阻害が強く起こる。このため、葉内での光強度の勾配は、葉内での光阻害の程度にも勾配をもたらすものと考えられる。また、光はその波長・色によって葉緑体による吸光度が異なることが知られている。葉や葉緑体が緑色をしていることからも解るように、赤や青色の波長の光に比べると緑色の波長の光は、葉緑体に吸収されにくく、葉内でより深くまで光が届いている。このような波長・色による葉内での光強度の勾配の差は、葉内での光阻害の程度の勾配にも差をもたらすものと考えられる。
これらの仮説を確かめるために、光ファイバーを用いたクロロフィル蛍光測定装置を立ち上げた。光ファイバー1本の先端をバーナーで熱して引き延ばし、先端の細さを直径30um程に細くすることで、ファイバーが葉内に刺さるようにした。これをマニュピレーターを用いてマイクロメーター単位で差し込んでいくことで、葉内の各深さでの光阻害の程度、光化学系IIの活性の測定が行えるようにした。これにより、葉内での光阻害の程度の勾配を測定したところ、予測通り、赤や青色の波長の光に比べて緑色の波長の光の方が葉内での光阻害の程度の勾配が弱いことが示された。