| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA1-095
【研究背景】 小笠原諸島では,現在も進行しつつある乾燥化による生態系への影響が危惧されており,気候変化に対する固有植生の応答を予測することが急務である.これまでに,小笠原諸島に成立する乾性低木林の構造は水文気候条件と対応しており,また,強い乾燥ストレスにさらされる場所では構成樹種の生長が抑制されることを明らかにした.これらは,構成樹種が季節的な乾燥ストレスに適応し,水利用様式を変化させた結果として生じたと考えられる.
【目的】 本研究では,小笠原諸島における水文気候条件に対応した乾性低木林の構成樹種の水利用様式を明らかにするため,優占種であるシマイスノキの蒸散量の季節変化について解析した.
【調査方法】 調査は小笠原諸島父島の初寝山で行った.シマイスノキ Distylium lepidotum (樹高1m)の主幹に茎熱収支法による樹木用蒸散測定センサーを設置し,蒸散流量の連続観測を行った.同地点で得られた気象観測データと併せて解析し,シマイスノキの水利用様式と水文気候条件との関連性を考察した.本研究では2007年の観測データを用いた.
【結果と考察】 水蒸気飽差の季節変化に応じて,シマイスノキの蒸散量には季節変化が認められ,夏季は冬季に比べ蒸散量が低下した.一方で,土壌水分量が30%以下の乾燥ストレス下にある期間では,蒸散量は水蒸気飽差と対応せずほぼ一定であった.乾燥ストレスを受けていない期間と比較すると,乾燥ストレス下にある期間では蒸散量が20%以上少なかった.以上のことから,亜熱帯性低木林の優占種であるシマイスノキは蒸散を抑制し,水利用様式を変化させることで季節的な乾燥ストレスに耐えて生育していると考えられた.