| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA1-098

石灰岩地帯に生育する常緑広葉樹の生理特性

香山雅純(森林総研九州)

我が国には、各地に石灰岩が分布する地域が点在する。石灰岩地帯では、高いpHの影響で鉄などの微量元素の吸収阻害がおき、リンがカルシウムと強固に結合しているため植物に吸収されず欠乏しやすい環境である。石灰岩地帯は特殊な養分環境ではあるが、一部の植物は環境に適応し、分布している。しかし、我が国の石灰岩地帯の植物に関する研究は構成種に関する研究がほとんどであり、栄養生理学的に検証した研究は現在まで行われておらず、なぜこれらの植物が石灰岩地帯に生育できるのかという原因は解明されていない。そこで、石灰岩地帯に生育する樹木の成長特性を、主に養分動態を中心に検討することを目的とした。

調査地は、九州において広大な面積を誇る石灰岩地帯である福岡県北九州市の平尾台に分布しているヤブニッケイとシロダモを対象にした。そして、2樹種の樹冠中部の光合成速度を10月下旬に測定した。測定に使用した葉はサンプリングし、各種養分濃度を分析した。これらの樹木は、非石灰岩地帯 (褐色森林土) に該当する、平尾台の西側に位置する中谷国有林内に生育している個体も併せて測定し、比較、検討した。

光飽和時における最大光合成速度は、ヤブニッケイ、シロダモとも石灰岩地帯と褐色森林土の個体間に有意な差はなかった。しかし、光−光合成曲線を検討すると、石灰岩地帯の個体は100 umol m-2s-1あたりの暗い環境における光合成速度が低く、初期勾配の傾きが小さくなった。また、葉内の窒素、リン濃度はヤブニッケイ、シロダモとも石灰岩地帯と褐色森林土の個体間に有意な差はなく、養分の吸収は抑制されていないと考えられた。


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