| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA1-164
近年日本各地でニホンジカの生息密度増加による森林生態系への影響が問題となっている。一方でシカの採食圧を定量的に評価した研究例は少なく、シカの生息密度と採食圧の関係、すなわちシカの個体数増加がそのまま採食圧の増加となるのかどうかは不明である。植生に直接影響するのは個体数ではなく採食圧であるため、両者の関係を明らかにすることは非常に重要である。そこで屋久島に生息するヤクシカを対象として、シカ生息密度と稚樹への採食圧の関係を調べた。
ヤクシカ生息密度の異なる4ヶ所の屋久島低地照葉樹林において調査を行った。各調査地においてヤクシカが採食可能な高さの稚樹を対象とし、樹種と個体数、食痕の有無を調べた。食痕のみられた個体の割合を算出し、これを自然植生への採食圧ととらえて調査地間で比較した。ヤクシカ生息密度は糞塊による密度推定法から算出した。
調査の結果、ヤクシカ低密度地域で好んで採食されていた樹種の食痕頻度はシカ密度増加にともなって増加し、高密度地域では稚樹個体がほとんど存在していないことが分かった。また低密度地域であまり採食されていなかった樹種は、高密度地域では好んで採食されていた。一方で植生全体への採食圧は、ヤクシカ密度20頭/km2程度までは密度増加とともに増加していたが、それ以降は密度に関わらずほぼ一定であった。
以上のことから樹種ごとにみるとシカ密度と採食圧は正比例しているものの、植生全体への採食圧はシカ密度と比例せず、早期に頭打ちになることが明らかになった。高密度地域のヤクシカはその食性の8割を落ち葉でまかなっているという報告があることから、落ち葉の方が高密度地域に存在する稚樹植生よりも選好性が高いことがこの原因ではないかと考えられる。今後は落ち葉食いの頻度と生息密度の関係を調べ、植生への影響を議論していくことが必要だろう。