| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA1-172
東海地方の中心都市である名古屋市を有する土岐川・庄内川流域圏は,中流域以降ではすでに都市化が進み,近年は上流域の岐阜県東濃地方においても住宅地などの開発が著しい.土岐川・庄内川上流域〜中流域には東海層群の地層からなる丘陵地が広く発達し,この地質に起因した小規模で貧栄養な湿地が広く潜在的に存在する.これらの湿地環境は水生昆虫ヒメタイコウチや東海丘陵要素植物をはじめとする東海地方の自然を特徴づける生物種のハビタットとなっている.潜在的なハビタットが開発の危機にある現在,これらの生物種の分布把握およびハビタットの定量的評価は早急な課題である.
本研究では,土岐川・庄内川流域圏におけるヒメタイコウチの生息に寄与する環境要因の解明とその許容範囲の数値化を目的とし,中部大学恵那キャンパス(岐阜県恵那市武並町)を調査フィールドとしたハビタット調査を行った.調査地はキャンパス内ヒメタイコウチ生息湿地7箇所を対象とし,捕獲地点を中心に30×30cmのコドラートを計50コドラート設置し,ハビタット変数候補11項目を測定した.調査結果より,捕獲数に及ぼす影響が顕著であった変数候補のうち,特にヒメタイコウチの生息に関連が深いと考えられた「コドラート傾斜角度」,「リター被率」,「リターの厚さ」,「水深」の4項目をハビタット変数として抽出し,その至適範囲・適性指数を表すSIモデルを作成した.また,作成された4つのSIモデルについて HSIモデルを検討し,統合式として幾何平均法を採用した.
本研究では湿地生態系を代表するヒメタイコウチのハビタットの「質」に対し,定量的評価方法を提示することができた.今後,流域圏全体でのモデルの適用・再検討によるモデルの精度・普遍性の向上が必要である.