| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA1-201

釧路湿原南部におけるハンノキの大きさ、現存量、形態と年輪成長、およびその分布を調節する要因

*矢部和夫(札幌市立大),中村隆俊(東京農大生物),山田浩之(北大院農),石川幸男(専修大北短),植村滋(北大フィールド),金子正美(酪農大)

2005年から2007年にかけて、釧路湿原下流域(温根内の赤沼周辺から広里)の大規模ハンノキ林化のメカニズムを解明するための研究が行われた。

ハンノキの大きさ、形、現存量に関する項目は生育地の水文化学変量とまったく関係を示さなかった。pHはハンノキ年輪の相対成長量に正の相関があり、ハンノキはボッグの酸性環境では生育が抑制されていた。 ハンノキ林はフェンよりも水位変動が小さいところに出現した。播種実験と実生の移植実験によれば、フェンの大きな水位変動条件では、種子は一時的な冠水で発芽できないが、実生を移植すれば非常によく育った。したがって、フェン内では、種子の発芽制限でハンノキが侵入できない。

1930年代に下流域では、築堤と明渠が構築された。地下水浸透流解析によると、温根内では堤内地(築堤の南側)に設置された明渠の排水効果によって、ハンノキ林化している堤内地の水位変動が低下することが判明した。したがって下流域のうち温根内では,水位が安定化してハンノキの種子が発芽可能になり、ハンノキ林化が始まったと推察される。

航空写真によると、温根内の堤内地でハンノキ林化した地域は、1985年の野火前は、疎なハンノキを交えた景観が長期間維持されていた。年輪解析によれば、この地域のハンノキの多くは、野火後数年以内に一斉に定着して、個体群密度を急増させた。広里においてもハンノキは、40才未満のぼう芽で構成されており、1967年に起こった野火後に樹林化したものと思われる。

このように釧路湿原下流域の大規模ハンノキ林化は、築堤・明渠による水位の安定化と野火という攪乱によってもたらされたダイナミックなプロセスであることが想定される。


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