| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA1-208

浚渫土を活用した干潟再生の可能性

*大田直友,河井崇(阿南高専・建設システム工)

近年,干潟の持つ豊かな機能の保全と再生に向けた取り組みが各地で実施されており,中でも浚渫土を用いた人工干潟造成が注目されている.その背景として,現在干潟の造成材料となる海砂の採取が困難であり,代替材料の確保・開発が課題とされている.さらに,漁港漁場整備事業等において毎年大量に発生する浚渫土の処理も喫緊の課題であり,これらの解決策として浚渫土の干潟造成への活用が検討されている.しかしながら,再生の名を借りた浚渫土処理という批判もあり,その有効性を科学的に検証することが必要不可欠である.

徳島県阿南市大潟干潟は,当初埋め立てを目的として航路浚渫土及び建設工事残土(山土)による盛り土を行った結果,意図せず創出された人工干潟である.工事後10数年経過した現在,この干潟上でシオマネキ,ハクセンシオマネキ,フトヘナタリといった希少種14種を含む77種のベントス・魚類の生息が確認され,人工干潟としては類を見ないほど生物多様性が高いことが明らかになった.特に希少種シオマネキに注目して分布状況を調査したところ,粘土シルトの細粒分が90%以上をしめる浚渫土投入区内において多数の生息が確認されたのに対し,70%以上が粗粒分からなる山土区内では全く確認されず,浚渫土の物理的特性がシオマネキの生息に適していることが示唆された.しかしながら浚渫土区内においても,巣穴を有した定住個体の分布は地盤高が平均大潮干潮面から+1.0〜2.0mの高潮位域に限られており,さらに生息密度は淡水の流れ込みによって生じた澪筋沿いで高かった.これらの結果より,浚渫土は,豊かな泥干潟における代表的希少種シオマネキが生息可能な環境を創出するにあたって有効な材料であるが,地盤高や淡水の供給等造成デザインに留意が必要であることが示唆された;E1-11の講演も参照.

本報告は,水産庁・水産基盤整備調査委託事業の成果の一部である.


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