| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA2-423
林床性多年生草本オオウバユリは長い栄養成長期間を経て、一回の有性繁殖と、娘鱗茎形成による栄養繁殖を行う。特に、有性繁殖に関しては自家和合性を示し、自殖・他殖の程度は集団サイズや訪花昆虫の種類、訪花頻度などの生物学的環境要因の影響を受け、さらに、近交弱勢の程度により集団維持への寄与も変化すると考えられる。そこで、本研究では、オオウバユリの有性繁殖によってもたらされる集団の遺伝的多様性に焦点を当て、生育環境ならびに集団サイズの異なる野幌(NP)、北大植物園(BG)、千歳(CT)の3集団を対象に、野外調査ならびにマイクロサテライトマーカーを用いた遺伝解析を行った。他殖率・近交係数・遺伝的多様性の比較には、種子、実生、1枚葉、3枚葉、開花個体の5つの生育段階を用いた。
その結果、札幌市の中心部に位置するBG集団や畑作地に孤立するCT集団では、他殖率・遺伝的多様性が低く、近交係数は生育段階が進むにつれて緩やかに減少する傾向が認められた。一方、自然度が高く広い森林の中に位置するNP集団では、他殖率・遺伝的多様性が高く、近交係数は生育段階による変動が大きかった。このことより、孤立林林床などの小さい集団では訪花昆虫の訪花頻度の低下などにより自殖の寄与が大きく、遺伝的多様性は低いことが示された。一方、自然度の高いNP集団では訪花昆虫の量や訪花頻度が高いと予想され、種子生産には他殖が大きく貢献しており、集団の遺伝的多様性が高いことが示唆された。また、生育段階間の近交係数の変動の要因としては、他殖率の年変動が大きいこと、または、一回繁殖型であるために開花個体の遺伝的組成が年によって異なることなどが考えられる。以上のことから、オオウバユリでは集団の生育環境の違いにより有性繁殖の質が異なり、それによって集団の遺伝的構造に違いが生じていることが示唆された。