| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA2-426

栃木県太平洋側の低地に分布するブナ集団のマイクロサテライトマーカーによる遺伝構造の分析

*稲永路子,数金真理子,小林幹夫(宇都宮大・農・森林)

栃木県東部の八溝山地では、標高300m程度の低山地にブナが分布する。本研究では、これらの地域のうち高館山(益子町、標高301.8m)および荒川右岸(那須烏山市、標高190.2m)の2地点を調査対象とし、各集団の遺伝的構造をマイクロサテライト遺伝子座の分析により検討した。

高館山では18個体、荒川右岸では27個体から試料を採集し、GPSによって各個体の位置を測定した。マイクロサテライトマーカーとしてmfc5mfc2を使用した。増幅条件を30サイクルとし、PCR産物を2%アガロースゲル電気泳動法によりバンドを検出した。

各集団の対立遺伝子数、ヘテロ接合度の期待値、ヘテロ接合度の観察値は、高館山ではmfc5の各統計量が5、0.74、0.30、mfc2では8、0.81、0.48であった。荒川右岸のmfc5では5、0.71、0.28、mfc2では8、0.80、0.78であった。また両集団とも対立遺伝子多様度は6.5であった。mfc5では、両集団が全て共通した対立遺伝子を持つが、mfc2では高館山に特有の対立遺伝子と荒川右岸特有の対立遺伝子がそれぞれ4座検出された。mfc2は、バンドサイズ134〜219bpが知られているが、本研究では両調査地において237bpおよび荒川右岸において125bpという独自の対立遺伝子が検出された。これらの結果より、両集団は個体数が少ないにもかかわらず高い遺伝的多様度を保有することが示唆された。

各個体の緯度経度情報より、高館山の各個体間の距離を算出した。18個体の平均距離は69.1m、最大値は163.2m、最小値は1.1mであった。mfc5について見ると、北西方向の谷を挟む尾根上に290bp、315bpのバンドを持つ個体が集中し、また3個体がこの2本のバンドのヘテロ接合体であった。


日本生態学会