| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA2-448
天然林から人工林(スギ・ヒノキ人工林)への転換は、しばしば下層構成植物の種数を減少させるが、人工林と天然林の両方に見られる下層構成種は多い。こうした下層構成種に及ぼす人工林化の長期的影響を理解するためには、天然林と人工林の両方で個々の種の分布や動態、繁殖の実態を明らかにしていく必要がある。ミヤコアオイ(Asarum asperam)は常緑性の林床草本であり、かつては薪炭林などに多く見られたが、戦後の拡大造林で生育地の多くが人工林となっている。そこで、本種の個体群に及ぼす人工林化の影響を明らかにするため、滋賀県比良山麓の人工林と落葉樹二次林に見られる集団を対象として、サイズ・成長、出現頻度・密度(生育パッチ内での密度)、種子生産過程を調べた。加えて、人工林の林齢・光環境と出現頻度・密度との関係も分析した。その結果、葉サイズ、シュートの伸長量・分枝については、人工林と二次林の間で有意な差は認められなかった。しかしながら、出現頻度と密度は、シュートと実生両方ともに人工林の方が二次林よりも低かった。人工林の林齢・光環境とシュートの出現頻度・密度との関係についてみると、出現頻度については明瞭な関係が認められなかったが、密度は林齢の増加とともに減少する傾向が認められた。この関係から推定した人工林でのシュートの年あたりの増加率は0.974となった。シュートあたりの花数・花あたりの胚珠数・結実率についても人工林の方が二次林よりも小さく、人工林でのシュートあたりの種子生産量は二次林の値の18%と推定された。これらの結果は、ミヤコアオイ個体群は、生育地が人工林になると、植林時のかく乱によって出現頻度が減少するとともに、その後も時間の経過とともにシュート密度が除々に減少していくこと、さらに、シュート密度のみならず開花・結実量も減少することで種子生産源としての機能も低下することを示している。