| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA2-451
背景:大型動物の採食圧を受ける環境では、刺や毒などの防御形質を備えた植物種は、近隣の他種植物に対しても間接的に被食から防御しうる。しかし、防御植物は近隣植物と競争もする。間接防御(正の作用)はどのような側面で、競争(負の作用)より強く働くだろうか。
目的:防御植物の正の作用が、近隣植物の適応度要素(生存、成長、繁殖)や個体群の空間構造のどの面で見られるのかを明らかにする。
方法:奈良公園に生育しシカに対する防御形質をもつイラクサと防御形質をもたないイヌタデを対象とした。競争と防御作用を分けて評価する野外実験を行った。公園内にイラクサの存在/切除、および被食防護柵の設置/非設置の処理を組み合わせたプロットをそれぞれ10個ずつ設置し、各プロット内のイヌタデの位置、サイズ、生存、繁殖を約2カ月おきに記録した。
結果:柵の中では、イラクサが存在するとイヌタデの成長、生存、繁殖は低下した。一方、柵外は逆の傾向がみられたが、その程度は弱く一部の時期に限られた。イヌタデの空間分布はイラクサ個体と近接する傾向にあった。これらの結果は、イラクサの間接防御が若干働いていたことを示唆する。
現在奈良公園に生育するイヌタデは、被食環境に適応した矮小形態のエコタイプであることがわかっている。そこで、被食環境に適応していない標準形態のイヌタデ個体をイラクサの近隣に移植すると、劇的な間接防御作用が見られた。防御植物の正の作用は、他種が被食環境へ適応進化するとともに弱まると考えられる。