| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA2-460

細菌相利共生系の成立初期における適応的表現型変化

*細田一史(阪大・情),森光太郎(阪大・生命),柏木明子(弘前大・農),山内義教(阪大・生命),城口泰典(阪大・情),四方哲也(阪大・情)

自然界の至る所で見られる相利共生系は、元々は独立だった生物種が出会い、それぞれが相手の存在下という環境に適応してできた、安定な相互適応状態であると考えられる。ではその適応過程はどのようなものだったのか?その過程において、どのような要素が大きく影響したのか?過去の系は観察できないが、現存する共生系の遺伝子系統解析や理論研究などで知見が蓄積されてきた。本研究ではこれらの知見に加え、天然にはない新規共生系を人工的に作り、系内の生物の挙動を観察することで、安定な共生関係への過程についての新しい知見を得ることを目的とした。こうすることで、上記の問いを実際の生物に尋ねられる。本研究では系を単純にするため、最も単純なモデル生物の一つである大腸菌(細菌)を用いた相利共生系を作った。具体的には、2種の異なるアミノ酸要求性を持つ大腸菌株からなる系である。この系は本質的に、アミノ酸の漏洩により双方が増殖できる必要条件を満たしており、また生物の進化能を考慮すると、最終的にはそれぞれの大腸菌が共培養(共生)に最適な状態へと遺伝的に適応進化していくと予想される。なお2種間には知られている相互作用機構は存在しない。実験の結果、アミノ酸を含まない培地でも双方増殖できることが確認された。さらに解析の結果、片側の大腸菌が相手に必要なアミノ酸を、単独培養時に比べ100倍程度も速く漏洩しており、これによって共培養の増殖が推測よりも10倍程度速くなっていた。なおこの変化は遺伝的変化によらないと示唆されている。以上から、共生系の適応初期には、遺伝的適応の前に適応的表現型変化が大きく影響したことが示唆された。


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