| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA2-462
近年、本州日本海側を中心に、ブナ科樹木萎凋病(通称“ナラ枯れ”)の流行が問題となっている。本病は病原菌Raffaelea quercivoraをカシノナガキクイムシ(Platypus quercivorus、以下、カシナガ)が媒介することによって引き起こされる。カシナガは宿主樹木材内で共生菌を“培養”し、それを食餌とするとされる養菌性キクイムシの一種である。演者らは、これまでの研究でカシナガの巣内(坑道)から菌類を分離し、R. quercivoraとCandida属の酵母2 種の計3 種がカシナガの主要共生菌である可能性が高いことを明らかにした。また、これら3 菌種は互いに分子系統学的にかけ離れていることも明らかにした。いずれの菌種もカシナガの坑道・虫体・フラスといった関連するソース以外からは分離されておらず、ブナ科樹木の材内を特異的なハビタットとし、宿主材成分を利用して生育していると考えられる。カシナガと共生菌の具体的な生物間相互作用を明らかにするためには、個々の共生菌に関する基礎的知見を蓄積することが求められる。
そこで演者らは、酵母類の分類・種同定に用いられる生理生化学試験をR. quercivoraにも援用し、カシナガの主要共生菌と考えられる酵母2 種と併せて3 菌種の生理生化学的形質を比較した。その結果、スクロース、マルトース、セロビオース、D-キシロース、L-ラムノース、クエン酸をはじめとする種々の炭素化合物の資化性状に顕著な違いが認められ、共生菌3 種が宿主材成分の利用に関して資源分割をしている可能性が考えられた。今後、カシナガの適応度に対するこれらの共生菌の寄与を生態生理学的観点から検討していく予定である。