| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA2-464

中心珪藻(Cyclotella meneghiniana)の粘液糸放出器官における表現型可塑性

*城川祐香,嶋田正和(東大・理),狩野賢司,真山茂樹(東京学芸大・生物)

遺伝子型が同一であっても、環境条件によって表現型が変化する能力を表現型可塑性といい、多くの生物で事例が知られている。淡水域から汽水域まで幅広い環境に生育する浮遊性の中心珪藻Cyclotella meneghinianaは、珪酸質の殻上に有基突起と呼ばれる粘液糸を放出する器官を持ち、その数は0〜7個と大幅な種内変異が知られている。しかし有基突起数の変異が表現型可塑性をもつかどうかは明らかではなかった。

そこで複数産地から確立したクローン株を用いた培養実験を行い、表現型可塑性の有無とその性質(経日変化、誘発要因、クローン株ごとの反応規範の違い)を調査した。その結果、海水濃度が高くなると有基突起数が増加するという表現型可塑性が認められた。また複数産地から確立したクローン株間で海水濃度変化に対しての反応基準の違いが認められた。

また感潮河川の中流域から河口にかけての野外調査をおこない、海水濃度の高い河口で、本種の有性生殖の誘発を示唆する結果が得られた。加えて有性生殖などの生活史とともに変化する形質である珪藻殻の直径と有基突起数に正の相関が認められた。

有基突起は放出する粘液糸によるコロニーや細胞集塊形成、それにともなう沈降速度変化に関与する殻器官である。珪藻では有性生殖や休眠胞子形成などの生活史や環境中の栄養塩濃度の変化で沈降や上昇をする例がいくつか知られている。これらの結果をもとにして、海水濃度変化を環境シグナルとする表現型可塑性や生活史による、有基突起数変化による細胞集塊の形成、沈降の適応的意義について議論したい。また本種の表現型可塑性の研究材料としての可能性についてもふれたいと考えている。


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