| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA2-506
育児寄生者であるカッコウの雛は自分を育ててくれたホストを刷り込んで、そのホストに托卵するようになるといわれている。1つの地域に複数種のホストが生息する場合、カッコウメスは特定のホストにのみ托卵すると考えられているが、稀に異なる種類のホストに托卵することが知られている。一方、ホストは托卵を認識排除するように進化すると考えられており、実際に托卵を認識排除するホストの存在が知られている。ホストが高い托卵抵抗手段を示す場合、カッコウは十分に繁殖できずに絶滅してしまうが、実際にカッコウは、現在も「托卵」という繁殖形態をとりながら生存している。ホストが托卵抵抗手段を獲得する前に、パラサイトはホストを次々と乗り換えることで存続しているのではないかという「ホスト乗換え仮説」が鳥学者により提唱されている。本研究は「ホスト乗換え仮説」を数理的に検証することを目指している。
ホスト−パラサイトの個体群動態モデルはいくつかあるが、多くは決定論的モデルである。決定論的モデルでは、集団密度のダイナミクスに注目しているため、絶滅とみなすべ小さな値の時でもパラサイトが侵入することができてしまう。現実系では新しいホストへの托卵開始はきわめて少数のメス個体によるものと考えられる。従って本研究では、非負の整数値としての個体数の確率的変化に注目した確率論的モデルを用いている。
今回はパラサイト、ホスト受け入れ個体、ホスト拒否個体の3種系確率論的個体群動態モデルを作成した。個体ベースモデルを用いることで、ホスト、パラサイトの個体数と個々の性質を表現している。この確率論的モデルのシミュレーションから新しい托卵が成功する確率、失敗するまでの時間などの評価を行い、鳥学者が提唱するホスト乗換え仮説の裏付けを行う。